平凡な毎日を心ときめく非日常に誘う『架空の料理 空想の食卓』

 本書は、雑誌『料理天国』にて3年半、33回に渡って連載されたリリー・フランキーのエッセイと料理人、澤口知之の料理で構成された一冊です。
リリーさんがお題を出し、澤口さんがお題にあった料理を作る。お題は、「鬱の時に食べる料理」「宇宙で食べたい料理」「青年が太志を抱くための料理」などといった難題も登場します。 

 リリーさんは、この連載をしている際、「虚脱感や喪失感を常に携えていた」と打ち明けています。
憂鬱な日々を惹き戻してくれたのは、映画でも音楽でもなく、料理だったそうです。
料理には空腹以外のなにかを埋める力があり、連載を通してリリーさんは改めてそのことに気付き、「料理とは凡庸な日常を心躍る非日常に誘うものである」と綴っています。

   「唇で味わう料理」。これは連載の第7回目にリリーさんが出したお題です。
リリーさんは、インタビューや対談で女性に対して「好きな男性のタイプ」を聞くことがあるそうです。
その答えで印象に残っているのが「キスしたら、わかるんです」というもの。
リリーさんは、「初めての唇の感触をどう思ったかで、それからの恋愛関係は決まる」と書いています。
もし、別れたとして、誕生日や血液型は遠い記憶の向こう側に行っても、唇の感触はいつまでもそのときの感覚を呼び戻すことができるようです。
お題に対して澤口さんが出した料理は、牛レバーのカルパッチョ。これを食したリリーさんは、最高の唇を持った女性と濃厚なキスをしたような感覚に包まれ、全身が唇になったような錯覚を覚えたそうです。

 恋人の手のぬくもり、あなたを包みこむ体、肌の匂い、キスの感覚。五感が覚えているあの人の記憶。
2人で食す料理も、その1つ。今まで考えなかったような、食が与える喜びを教えてくれるレシピ本です。

書名:『架空の料理 空想の食卓』
著者:リリー・フランキー、澤口知之
発行:扶桑社
価格:¥1,890(税込)

Text/Yuuko Ujiie