お金をかけても手に入らない。日常にひそむ『買えない味』

 いくらお金に糸目をつけないと騒いでも「買えない味」。その美味しさは日常のなかにある。と、著者であるエッセイストの平松洋子さんは語っています。

 昨夜こしらえたいもの煮ころがし、おかずの汁のしみたごはん、うっかり捨てかけただいこんの皮……、本書は、日常のなかにひそむ、買えない美味しさを綴ったエッセイ集です。

 普通ならばナイフで取り除きゴミ箱行きになる野菜の皮やへた。
その皮やへたこそに、買えない味は存在しています。
平松さんの母親は、まるごと皮も一緒についた野菜をそのまま調理していたそうです。
「皮と身の間には舌に響く味がある」。それが確信へと繋がったのが、ナスのへたを食べた時。
そのときの状況を平松さんは「しぶとい繊維が歯に抵抗を与え、苦みやえぐみがかすかな灰汁となって舌の上に広がる」と表現しています。

 全編にわたり、食べるという行為を大切にしながら日々を生きているエッセイが満載。その内容はもっとはやく知っていればよかったと感じられるものばかりです。

 この本を読むと、今までの食事の方法がもったいなかったと後悔する人がいるかもしれません。
でも、今からでも間にあいます。
せっかくだから、「買えない味」を大好きな彼と二人で試してみてはいかがでしょうか。
二人で囲む楽しい食卓で、また新しい「買えない味」が見つかるかもしれません。

書名:『買えない味』
著者:平松洋子
発行:筑摩書房
価格:¥1,785(税込)

Text/Yuuko Ujiie