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  • 2016.11.05

知らない体験や感情が腹立たしい/『あげくの果てのカノン』米代恭インタビュー(3)

第2巻が発売されたばかりの漫画『あげくの果てのカノン』――作者・米代恭さんはこれまでになかった「恋愛」をこの作品で描こうと試みます。そんな米代さんがものすごいサイクルで恋愛をしている人に思うこととは?また恋愛で葛藤するひとりの漫画家からの、恋愛を楽しみつつも悩んでいるAM読者へのメッセージとは?

 8年間思い続けた先輩の境宗介との不倫に走るメンヘラ女子・高月かのんを描く漫画『あげくの果てのカノン』。その作者、米代恭さんが、思考を重ねてこれまでになかった「恋愛」を描こうとする姿は一般読者に恋愛の果てしなさを垣間見させてくれます。
米代さんのその試みの軌跡に迫るインタビューを全3回でお届けします。

■第1回 <恋愛を描けない悩みに新作で向き合う>
■第2回 <あとから崩れる幸せな時間を描くのは好き>

超完璧な少女にひざまずく青年が、気が狂うほど好き

『あげくの果てのカノン』 米代恭 小学館 月刊!スピリッツ メンヘラ 不倫 SF
米代恭さん

――前回の話ですと、かのんが先輩にときめいているシーンは萌え狂う「オタク」そのものだということでしたが、米代さんは何のオタクなんですか?

米代:めちゃくちゃオタクなのは認めますが、詳細はここでは内緒に……。この業界に入ってしまって、自分が神とあがめている作家さんに遭遇してしまわないかが不安で仕方ないです。

――知り合いになりたいのではなくて?

米代:神様に私の存在を知られたくないですよ。私はひっそりと自分の欲望を向けていたい。しかも、萌え狂っているときの姿ってすごくきもちわるいですから。かのんも、先輩に萌え狂っているときの自分はきもちわるいってことは自覚しています。
 だから描きやすくはあるけど、すごく恥ずかしいと思っています。でも、かっこつけてる場合じゃないので頑張っています。『僕は犬』もかなり性癖を全開にしてしまったので、とても恥ずかしかったんですけど……。

――どういう性癖なんですか?

米代超完璧な少女にひざまずく青年が、気が狂うほど好きなんです。しかもその少女には別に好きな人間がいて、青年はずっと報われない片思いで代用品にされている、みたいな関係性ですね。そういう二次創作ばかりずっと描いていて。
 でも、作者にはもちろん知られたくないですし、ふだんは周囲にもそういった話はしないです。知り合って3年くらいしてからやっとポツポツ話すという……。

――米代さんらしいエピソードですね。現実で片思いする相手にも自分の存在は知られたくないんでしょうか?

米代:現実の場合は1対1の関係を構築したいという気持ちはありますし、アプローチもしますね。でも、その人のことだけを考えて6時間経っていたりするので、きもちわるいのは変わらないかな……。

――具体的には何を考えているんですか?

米代:その人と対峙したときの私の動作や、その人の反応、そして振られる瞬間とかをえんえん反復してますね。

――成就するイメージはないんでしょうか?

米代:本当に想像がつかないんですよ。振られることしか考えられなくて。こういう告白をしてこう振られるっていうワンセットを恋愛感情として考えちゃうんですよ。まして、相手に彼女がいるときにアプローチするなんてことは考えたこともないですね。

知らない体験や感情に腹立たしくなる

『あげくの果てのカノン』 米代恭 小学館 月刊!スピリッツ メンヘラ 不倫
©米代恭/小学館 月刊!スピリッツ連載中

――そういった「恋バナ」を友人とする機会はあるんですか?

米代:昔からの友人はみんなオタクなので、二次元の恋愛の話しかしませんね。マンガを描きはじめてからは、恋愛経験が豊富な人に相談することも出てきましたが。ものすごいサイクルで恋愛をしている人もいてびっくりすることもあります。

――それはわかります。私、自分に一切なにもない2年くらいの間に、結婚、離婚、再婚、出産までこなしていた人がいて、茫然としました(笑)。「みんな恋愛のことばかり考えていてバカらしい」というふうには思いはしませんか?

米代:まったく思いません! むしろ尊敬しています。恋愛って、人と人が距離を詰めて関係を構築していくことじゃないですか。それができる人は本当にすごいと思っています。

――2巻のかのんのセリフにもありましたね。恋愛を10代のころにしておかないとすべての「距離感」が狂うという……。まわりの人を見ていてもそう感じるんでしょうか?

米代:いえ、そういうことはないです。恋愛経験のある/なしによって人にレッテルを貼るようなことは、私はむしろ許せないんです。ただ、自分のことになると別で、卑屈になるきらいはありますね。たとえば、担当さんや他人の恋愛話を聞いたりしているときに、自分が知らない体験や感情があることについて腹立たしくなるときがあるんです。

――創作をされている人ならではの葛藤だなと感じます。

米代:だから、その腹立たしさを解消するためにもっと経験を積みたい、というのはありますね。それと、経験することで何かが変わることはないのかもしれないけれど、経験しない限りは「変わらない」ということを確信できなくて思考だけが空回りしてしまう。だから、それについて考えちゃって袋小路になっている状況を突破した上で、もっと別のことに思考のリソースをさいて、マンガを描いていきたいです。

マンガの評価が信じられない?

『あげくの果てのカノン』 米代恭 小学館 月刊!スピリッツ メンヘラ 不倫
©米代恭/小学館 月刊!スピリッツ連載中

――そもそも、米代さんはどうしてマンガを描きはじめたんでしょうか?

米代:小学校のときには、百均で買ったノートにマンガを描いていましたね。1ページに1コマとかで、きちんとコマ割りやストーリーのあるものではなかったんですが。きちんと筋道だったものが描けるようになったのは高校のときです。周囲から「え、これ続きどうなるの」といった反応をもらえるのが嬉しくて、高3になって漫画家になりたいと思うようになりました。
 一応大学受験はして入学したのですが、それからすぐ応募した新人賞の最終選考まで残ったという通知がきて、担当編集の方にもついていただけることになったので大学をやめて、今にいたります。

――米代さんは前回、「恋愛とは承認だ」とおっしゃっていましたが、マンガを描いて評価されることは、米代さんにとって承認になっていますか?

米代:もちろん評価いただけるのはありがたいですし、承認が満たされる部分もありますが……信じられないですね。

――信じられない!?

米代:それもずいぶん失礼な話だなとは自分でも思っていますし、自分が他人の作品に「好きです」というときは誓って本心なんですけど、自分が言われるときはどうしても心のガードが残ったままなんですよ。「でもちょっと大げさに言ってくれてるんだろうな」とか「お世辞だろうな」とか思っておかないと、浮かれすぎちゃって、仕事に支障が出る……。

――言葉どおりに受け止めると嬉しすぎちゃうので自重していると(笑)。

米代:『カノン』の感想は、おかげさまで連載を読んでくださる方からいただいたり、イベントなどで読者の方とお話したりもしたので、だいぶ素直に受け入られてきてはいます。というか、あまりに身を削って描いているので、受け入れないとさすがに報われない(笑)。

――米代さんがいかに身を削ってマンガを描いているのか、今日は本当によくわかりました。
 最後に、AM読者の方にメッセージをお願いします。

米代:メッセージ……むしろ私がAM読者の方にアドバイスをもらいたいくらいですね……。きっと恋愛について楽しみつつも悩んでいる方が多いと思うので、かのんや私といっしょにその答えを探してみませんか?という気持ちではあります。恋愛について「こういう考え方もできるんだな」といろいろな選択肢を探している方にはぜひ読んでいただければ……。

――かのんとともに、米代さんが今後どう葛藤していくかも楽しみです。ありがとうございました!

米代恭

米代恭(よねしろ きょう)
1991年生まれ。2012年、アフタヌーン四季賞佳作『いつかのあの子』でデビュー。
 既刊単行本に、性に悩む二人の青年の葛藤と成長をみずみずしく描いた『おとこのことおんなのこ』(太田出版、2013年)、友達代行サービスを生業とする青年が不登校の女子中学生のペットとなる『僕は犬』(秋田書店、2014年)があり、2015年より『月刊!スピリッツ』において『あげくの果てのカノン』(小学館、1巻・2巻 続刊)を連載中。
 芥川賞作家・村田沙耶香、押見修造、志村貴子らが絶賛する、みずみずしい感性に注目が集まる気鋭の女性作家。

         

Text/ひらりさ
編集者/ライター。BL・女性向けコンテンツを中心に取材・執筆する平成元年生まれの腐女子。