• love
  • 2016.10.29

あとから崩れる幸せな時間を描くのは好き/『あげくの果てのカノン』米代恭インタビュー(2)

第2巻が発売されたばかりの漫画『あげくの果てのカノン』――作者・米代恭さんがこの作品で試みるのは、これまでになかった「恋愛」を描くこと。そんな米代さんが担当編集者から不倫を描くことを提案されて参考にしたものとは?また描きながら不倫について考えることとは?

『あげくの果てのカノン』 米代恭 小学館 月刊!スピリッツ メンヘラ 不倫
©米代恭/小学館 月刊!スピリッツ連載中
『あげくの果てのカノン』 米代恭 小学館 月刊!スピリッツ メンヘラ 不倫
©米代恭/小学館 月刊!スピリッツ連載中

 8年間思い続けた先輩の境宗介との不倫に走るメンヘラ女子・高月かのんを描く漫画『あげくの果てのカノン』。その作者、米代恭さんが、思考を重ねてこれまでになかった「恋愛」を描こうとする姿は一般読者に恋愛の果てしなさを垣間見させてくれます。
米代さんのその試みの軌跡に迫るインタビューを全3回でお届けします。

■第1回 <恋愛を描けない悩みに新作で向き合う>

不倫のフォーマットを構築して臨む

『あげくの果てのカノン』 米代恭 小学館 月刊!スピリッツ メンヘラ 不倫 SF
米代恭さん

――恋愛経験がない状態で描いている『あげくの果てのカノン』。しかも、かのんの恋愛には「不倫」という特色があります。不倫を描く上で参考にしたものはありますか?

米代:不倫についての本や映画を読んだり観たりして、感じたことはメモしていました。『カノン』の構想をし始めたときはちょうどドラマの「昼顔」もやっていたタイミングで。

――「昼顔」、話題になってましたねえ。観てておもしろかったですか?

米代:すごくおもしろかったんですけど、私には吉瀬美智子と上戸彩の「百合」ドラマにしか見えませんでした……(笑)。「昼顔」以外にもいろいろな作品にふれて、「不倫したときの人の心の動き」とか「不倫のフォーマット」とか自分の中に全部構築してたんですよ。

――不倫のフォーマット!

米代:出会って、葛藤があって、付き合って、2人でルールを決めて、すぐバレて、転落があって……というような。で、『カノン』の話を考えるときもそのフォーマットを踏まえていこうと考えていました。
 それで、経験者に話を聞く機会ができたときも、「あ〜きっとそのときはこう思ってたんでしょう」なんて自分なりに理屈をつけて話してみたんですけど……理屈じゃないんですよね。
 
――理屈じゃないでしょうねえ。

米代:自分が思ってたのと全然違う答えが出てきたり、浮気された奥さんが旦那と別れられなくて、周りの人も「やー、好きなんだもんねえ、しょうがないよねえ」と言っていたり。私が知識をもとに考えた感情っていうのは実際とずれているんだ……と。
 恋愛って努力だけじゃどうにもならない分野ですよね。仕事や漫画は正しい努力の仕方を模索できるんですけど、恋愛だと、模索しているうちにその人との関係はダメになってしまったり、「相性だからしょうがないよ」と言われてしまったり……。知識と思考では太刀打ちできない。

けじめをつけてまで不倫したいのなら……

『あげくの果てのカノン』 米代恭 小学館 月刊!スピリッツ メンヘラ 不倫 SF
©米代恭/小学館 月刊!スピリッツ連載中

――2巻では、かのんが境の妻・初穂と対面し、緊張感が高まっていきます。不倫ものというのは隠れて進行してやがてばれるイメージだったので、「こんなにすぐ気づかれちゃってるの!?」と驚きました。

米代:そうなんですよね。本当に考えなしなので、そうなってしまいました……。

――しかも、初穂さんが結構いい人なのが明らかになっていって、かのんがだんだんイヤな子に思えてくるという。初穂と境のなれそめから、だんだん気持ちが冷めていく過程が描かれているのが本当につらかったです。

米代:初穂の過去は描いていて楽しかったです。私は単純に幸せなだけの恋愛を描くのは苦手なんですが、あとから崩れる幸せな時間を描くのは好きなんです。

――さらっと怖いことを言っている(笑)。

米代:ただ、初穂のエピソードを描くにあたって「『結婚』について考えて」と担当さんに言われたんですけど、それはつらかったですね。頭がちぎれるくらい考えたのに何もおもしろいことが思いつかなくて。まわりで結婚したばかりの人もいないし、結婚式とかも出たことないし。いろいろな映画や書物の知識を組み合わせて描いたんですけど、「可もなく不可もないね」「それじゃつまんないね」と言われてしまいました。

――結婚についてはともかく、結局、米代さんは「不倫」のことはどう思っていますか?

米代:けじめをつければ好きにしたらいいんじゃない?と思っていますね。

――「けじめ」ですか。

米代:結婚までしている人間との恋愛は、他者の尊厳を傷つけることだとは思っていて、それをするからにはけじめが必要だと私は感じます。でも、その尊厳を傷つけて、かつけじめをつけてまでやりたいのなら、外野が止めることではないのかなと。

作家と担当でキャラ像が分かれる

『あげくの果てのカノン』 米代恭 小学館 月刊!スピリッツ メンヘラ 不倫 SF
©米代恭/小学館 月刊!スピリッツ連載中

――境はそれだけの覚悟を持って、かのんに近づいているんでしょうか。まあ、境の場合はゼリーとの戦いの末の「心変わり」も原因なんですけど。

米代:境のパーソナリティについては私と担当さんとでかなり意見が分かれていますね。私は、境はいろんな女とヤりまくりじゃないかと思っていたんですよ。

――えっ!(笑)

米代:でも、担当さんに「そんなキャラは好きになれない」と言われたので、一応「かのん以外とは何のやましいこともない」という設定です。

――じゃあ、もしかして、境の気持ちが奥さんから離れてかのんに向かっているのも「心変わり」だけの問題ではない可能性もありますか?

米代:それについてもいろいろ考えましたね。

担当:私は境のことをもともと弱い男だと思っているので、そちらについては「心変わり」だけの問題ではないんじゃないかなあと考えてますね。もちろん作品のなかでどうなるかは米代さん次第ですが……。

――おふたりがディスカッションすることで方向性が決まっているのですね。

カノンの信仰は萌え狂うオタクと一緒

米代:私はテンプレートの恋愛しかわからないので、担当さんの意見は本当に参考になってます。最近も、担当さんから聞いた、初めて付き合った人にやさしくされて嬉しかったエピソードをすごく素敵だなと思って内容に取り入れようとしたんですけど、よく考えたら「私、人にやさしくされたことないな」と思ってすごく落ち込み、該当シーンをあまり長く描けなかった、ということがありました。私だってそういう絶対的な承認を人から得たい!って思っちゃって……。

――米代さんは、恋愛の両思いは「承認しあえている」状態だと思っている?

米代:両思いというのは、精神的であれ肉体的であれ、いま自分にとって相手が必要だと提示しあっている状態かなと思っていて、そこに発生しているのは「承認」かなと考えています。

――それでいうと、1巻のかのんは承認を求めている状態ではないですよね。

米代:自分が境とどうこうなるとは一切思ってないからですよね。生身の境は手に入らないから、その表層をかきあつめている女の子のイメージで描きました。

――それ自体は米代さんにも身に覚えがある?

米代:というかアレは、オタクが好きなものに萌え狂っているときの姿なんですよね。私はものすごくオタクなので、かのんの境への思いが「信仰」である段階では、難なく描くことができました。
 読者の方にもそのあたりは伝わったらしく、1巻ではジャニオタの方からの感想も多かったです。「かのんの気持ち、よくわかる!」と。けれど2巻のかのんはもっと生身の境に承認されようとしていて、「恋愛」に移っていくので、描いていて本当に大変でした。

(第3回につづく)

米代恭

米代恭(よねしろ きょう)
1991年生まれ。2012年、アフタヌーン四季賞佳作『いつかのあの子』でデビュー。
 既刊単行本に、性に悩む二人の青年の葛藤と成長をみずみずしく描いた『おとこのことおんなのこ』(太田出版、2013年)、友達代行サービスを生業とする青年が不登校の女子中学生のペットとなる『僕は犬』(秋田書店、2014年)があり、2015年より『月刊!スピリッツ』において『あげくの果てのカノン』(小学館、1巻・2巻 続刊)を連載中。
 芥川賞作家・村田沙耶香、押見修造、志村貴子らが絶賛する、みずみずしい感性に注目が集まる気鋭の女性作家。

Text/ひらりさ
編集者/ライター。BL・女性向けコンテンツを中心に取材・執筆する平成元年生まれの腐女子。