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  • 2016.10.19

恋愛を描けない悩みに新作で向き合う/『あげくの果てのカノン』米代恭インタビュー(1)

「恋愛を描けない」と悩んでいたという漫画家の米代恭さん。彼女が恋愛、しかも不倫の物語に挑むのがAMでも第1話を掲載した『あげくの果てのカノン』。第2巻の刊行に際して、インタビューを掲載します!恋愛を描く上での苦労っていったい何があるのでしょうか?これまでになかった「恋愛」を描く試みの軌跡に迫りました!

『あげくの果てのカノン』 米代恭 小学館 月刊!スピリッツ メンヘラ 不倫
©米代恭/小学館 月刊!スピリッツ連載中
『あげくの果てのカノン』 米代恭 小学館 月刊!スピリッツ メンヘラ 不倫
©米代恭/小学館 月刊!スピリッツ連載中

 8年間思い続けた先輩の境宗介との不倫に走るメンヘラ女子・高月かのんを描く漫画『あげくの果てのカノン』。その第2巻の発売に合わせて、AMでは作者・米代恭さんのインタビューを掲載します!

「恋愛が描けない」と悩んでいた作者がなぜ新作では不倫の話を描くのか、どんな恋愛観を持っているのか、また創作過程にはどんな苦労があるのか――キスシーンの描き方から担当編集さんとの恋愛談義で凹まされた経験まで、いま最も才気あふれる漫画家の果てしなく奥深い思考回路に迫りました!


他の人が描いたほうがおもしろくなる?

『あげくの果てのカノン』 米代恭 小学館 月刊!スピリッツ メンヘラ 不倫
米代恭さん

――このたびは『あげくの果てのカノン』2巻の発売おめでとうございます。以前AMで「ダメだとわかっているのに不倫にハマる人へ」というタイトルで1話が掲載されたときには、大きな反響がありました。

米代:ありがとうございます。1話を載せていただいたときに「すごいサイトだなあ」と思ったのですが、まさかインタビューまで載るとは思いませんでした。AM読者ほどには恋愛経験豊富ではないと思うので……。

――どうして『カノン』のような話を描くことになったんでしょう?

担当:それは私から提案しました。米代さんの『僕は犬』で描かれていたような、そのふたりでしか成り立っていないような関係をまた米代さんに描いてもらいたくて。直接お話するなかで「恋愛を描けない」という悩みがあると打ち明けられたんです。そんな悩みのある米代さんだからこそ描ける恋愛マンガがあるのではないかと思って、「不倫もので、しかもSFなのはどうだろう」と。

米代:単なる恋愛マンガよりもハードルが高いですよね。担当さんと話し合いながら毎回何とか描いているんですが、きっともっと恋愛している人が『カノン』を描いたほうがおもしろくなるだろうといつも思っています……。描けなくて悩むときは「何でこんなに苦しい思いをしないといけないんだろう」という気持ちになります。

キスシーンは如何にキスの前を盛り上げるかが大事

――まあ恋愛マンガを描いている人が恋愛経験豊富で、不倫マンガを描いている人が不倫経験豊富、というわけでもないです……よね?

担当:そうですね。経験をもとにされている方もいるかもしれませんが、人それぞれだと思います。経験がないからこそ描ける関係、そうして描かれたふたりにしかありえない関係があると私は思っていて、今回の『あげくの果てのカノン』では米代さんにそれを描いてもらっているんです。

米代:序盤のかのんは、先輩と距離を置いて一方的に眺めているだけだったから良かったんですけど、4話あたりからは「信仰を恋愛感情にして、恋愛を進めないと」と担当さんから言われるようになり、ずっとしんどかったです。

――そうなんですか! 2巻ではさらにかのんと先輩の距離が縮まっていて、かなりイチャイチャしているシーンもあり、「恋愛したてのしあわせな空気」にあふれていてキュンとしましたが……そういうシーンを描くのもつらいんですか?

米代:むしろそういうシーンほどつらいです。ネームを何度描いて出しても「描き直してください」と言われて、10回くらい直したときもありました。

――担当さん、なかなか厳しいですね。

担当:米代さんのネームは構成がしっかりしてるので、米代さん自身がしっくり来ていないときには一発でわかるんですよ。

米代:2巻にはかのんと境のキスシーンがありますが、あそこは特にダメ出しされましたね。「キスシーンはキス自体よりも、キスの前を盛り上げるのが大事なんです」って言われて何度も描きなおすんですけど、経験豊富ではないから本当にわからないんですよ。

『あげくの果てのカノン』 米代恭 小学館 月刊!スピリッツ メンヘラ 不倫
©米代恭/小学館 月刊!スピリッツ連載中

「こういう人間とこういう人間が恋愛したらこうなるんじゃないかな」ということは自分の頭のなかでものすごく考えて構築しているんだけど、「こうなる」ときの細かい機微まではわからないから、いろいろな人に意見をもらって試行錯誤するんです。最終的に今回のキスは雑誌連載時の入稿の直前にも直しましたね……。

――OKになるときは、何か米代さんの心境に変化があって壁を突破するんですか?

米代:突破というか、「こんな事で悩んでる場合じゃない」と我に返って頭を切り替えます。

――悩むのをやめると恋愛が描けるようになる(笑)。失礼ながら、そうした葛藤の末に描かれているとはまったく思っていませんでした。

米代:私のマンガは、かならずしも経験をベースにしたものではありませんが、過去に生じた自分の感情を極限までシンプルにして、それを原石にして別の物語をあてはめて描いているんです。『カノン』の場合は、経験したことのない「恋愛」や「不倫」を描くにあたって、自分が想像しやすいように、主人公をできるだけ自分に近い設定にしたら、距離がとれなくなってしまって……。

経験を思考で補って恋愛を描く

――今まで恋愛を中心にした作品にはまったことはあるんですか?

米代:作品として読むのは好きです。でも自分で描くときは、恋愛は恋愛だけども絶対成就しない片思いの話ばっかりずっと描いていますね。ラブラブな話もおもしろく読めるしかわいいなとも感じるんですけど、それを自分でやろうとするとステレオタイプな内容になってしまう。

――2巻では、境との関係に悩んだかのんが、スタンダールの『恋愛論』を読んでいました。

『あげくの果てのカノン』 米代恭 小学館 月刊!スピリッツ メンヘラ 不倫
©米代恭/小学館 月刊!スピリッツ連載中

米代:『恋愛論』はですね、まさに私が読んだんです(笑)。4話以降ずっと描くのがつらくて、6話でいよいよ原稿を落としそうになったときに、これは自分の数少ない恋愛体験や人に聞いた話だけじゃダメだ、勉強しないとダメだと思い立って、本屋に行って恋愛の本を何冊も買ったんです。

担当:「こもって勉強します」という連絡が来て、さすがにびっくりしました(笑)。

米代:もうわからないことが多すぎるんですもん。ニュースで芸能人カップルの熱愛報道が出ると「共通の友人を介して交際スタート」なんて書かれているじゃないですか。私はあれを見るとイライラしてしまう。具体的にどういうアクションをとったか教えてほしいんですよ。こういうキャラクターの人間とこういうキャラクターの人間がいて、どういうアプローチをしたうえでつきあったのかをもっと詳細に知りたい……。

――たしかに経験はないかもしれないけれど、そのぶん「恋愛」について考えに考え抜いて描いている、ということですね。

米代:そうですね。経験はないぶん思考することで、これまでになかった「恋愛」が描けているならいいなと思っています。

(第2回につづく)

米代恭

米代恭(よねしろ きょう)
1991年生まれ。2012年、アフタヌーン四季賞佳作『いつかのあの子』でデビュー。
 既刊単行本に、性に悩む二人の青年の葛藤と成長をみずみずしく描いた『おとこのことおんなのこ』(太田出版、2013年)、友達代行サービスを生業とする青年が不登校の女子中学生のペットとなる『僕は犬』(秋田書店、2014年)があり、2015年より『月刊!スピリッツ』において『あげくの果てのカノン』(小学館、1巻・2巻 続刊)を連載中。
 芥川賞作家・村田沙耶香、押見修造、志村貴子らが絶賛する、みずみずしい感性に注目が集まる気鋭の女性作家。

Text/ひらりさ
編集者/ライター。BL・女性向けコンテンツを中心に取材・執筆する平成元年生まれの腐女子。