「今が楽しければ、この先だって楽しいはず」“子を持たない”を受け入れた先輩女子の人生への誇り

poiboy Poiboy

 「初めまして」で飲みはじめて、「そんなことまで話してくれるの!」という喜びに、この企画ではよく遭遇する。
さらにどんどん話を聞きたくて、ちょっと恥知らずなくらいグイグイ聞いてしまったりもする。そうは言っても「触れてはいけなさそう」な部分は、聞かずにそのままにしてきた。
でも中目黒で出会ったハナちゃん42歳は、聞きにくいこともどんどん話してくれた。
ハナちゃんの話、最終回――。
飲み会終盤は、どう生きていたいかの話になった。そしてそれを話すには、ハナちゃんが奮闘した「不妊治療の話」を聞かないわけにはいかなかった。

お義母さんのために妊娠したかった

poiboy Poiboy

 高校卒業してからずっと百貨店で働いていたハナちゃんは、30歳を過ぎると部下が300人にもなっていた。ストレスでどんどん太り、入社時に5号だった洋服のサイズはとうとう15号にもなった。ついに限界を迎え、36歳の時に退職、専業主婦となった。
そのタイミングで「婦人科の病院に行こう」と背中を押してくれたのが、旦那さんのお母さんだった。

「筋肉注射で痛いときも、卵管に管入れて痛いときも、ずっとそばにいておにぎりを作ってくれてたのがお義母さん。旦那より、お義母さんのために頑張ろうと思った

 人工授精、体外受精、顕微鏡受精…できるだけのことをした。
検査の結果、ハナちゃんも旦那さんも異常はない。それなのに、子どもはできない。いつまで頑張ればいいのか分からない治療が続いた。

「でも全部ダメだったの。そうしたら、お金ばかりかかって、このお金でヨーロッパ旅行行けるべ! もう犬でも猫でも買うべ! もういいや! ってなった」

 頑張りを知っていた両家の親たちも、「老後は養老院でも行けばいい。もう好きにしなさい」と言ってくれた。そうして奮闘は終わり、子どもを持たない人生を歩み始めた。

「たしかに子ども欲しかったよ。子どもって絶対的な存在らしいからさ、もしいたら全然違う人生になってただろうね。でも子どもはいないから、それってつまり私しかない。私の人生は私のものでしかない。これは自分の人生。だから、毎日楽しくしたいじゃん」

今が楽しければ、この先だって楽しいはず

 子どもを持たない人生を受け入れたハナちゃんは、自分の人生を、自分の今を存分に楽しむ毎日を送っている。遊び過ぎて旦那さんに「あったまおかしいね」と笑われるほど。

「この人生、いつ死ぬかも分からないじゃない? だったら今を楽しんでいたい。今日飲んで明日丸一日寝てたっていい。今が楽しければ、先も楽しいはずって思えるじゃん」

 さらに大きな身振りで続ける。

「今日こうやって声をかけてくれて出会えたことが幸せだし、そうやって人と出会って行くのって縁だと思うし。そういうことで私は満足しちゃうっていう日々でーーーーす!」

 ハナちゃんは、そう叫んでソファに横たわる。
あまりにも楽しそうに酔っ払っていた。泣きたくなるほど、素直だった。
そんな印象を伝えると、さらにハナちゃんは続けた。

「そう、いつだって素直でありたい。たとえば、若い頃は尊敬できる男って次から次に出会えるけど、この歳だとそんな人にはなかなか会わない。それこそ、首相や中居くんレベルじゃないともう無理よ。そうやって人に影響を受けにくくなるからこそ、素直でありたい。素直に、その人といる時間を楽しみたいよね」

 ハナちゃんの言うことは、道徳の教科書に書いてありそうなくらいキレイだ。
でも口先の言葉でなく、本心で語っていることが伝わるから、そんなことを叫ぶハナちゃんが愛おしく思えてくる。

「仕事しなきゃいけないのも分かってて。でも疲れきって辞めて、不妊治療も終わって、働く気にどうしてもなれないからね。それでも良いじゃない、働きたくなったら働けばいい。だから、自分の時間を遊びつくしてるの、今は」

 そういうハナちゃんを、「ズルイ」と言う人もいるだろう。「旦那に養われて」と嫉妬する人もいるだろう。でも、甘えられるものに甘えて何が悪いのだろう。
すっかり私もハナちゃん節にやられてしまった。
≫素直でいられる恋をしよう≪