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  • 2016.04.28

「私の前世は○○」からSNSへ!ワンタップで何者かになれる私たち

「特別な誰か」になりたいという承認欲求は昔からあったもの。しかし、ブログやSNSの発展が「認められたい」という思いを手軽に発信することを可能にしてきたのでした。さながらフルヌード未修正となった現代人の承認欲求!その推移をトイアンナさんが辿ります!

 何者かになりたい私たちを分析する新連載「承認欲求に喰われる心」。
前回の記事≪「クリエイティブになりたい」と自撮りをアップする私たち≫も併せてどうぞ。

前世ブームって、ご存知ですか?

トイアンナ 承認欲求 クリエイティブ
©☺ Lee J Haywood

 前世ブームってご存知ですか? 1980年代後半から1990年代前半にかけて「私の前世は○○です」と名乗りあう少女が急増したのです。

 きっかけは、1987年から連載された少女マンガ『ぼくの地球を守って』。主人公たちが前世での繋がりを思い出すことで再びめぐり合う……という斬新なストーリーが人気を呼びました。そこで「私にもきっと前世があるに違いない」と思った少女たちが「前世の仲間探し」をするために雑誌へ投稿しました。よくある文例を掲載します。

カフィールという言葉に運命を感じたらご連絡下さい。勇者カーン、魔術師レイン、ローゼ、レンドューサ、ミラーの皆さん、もしすでに覚醒していたら62円切手を同封し手紙をお願いします。聖十字隊、ベーゼル守護騎士などの言葉に感応された方もお願いします。なお「賢者のノオト」「封印の鍵」は私が持っています。ご連絡お待ちしています。

いま見直すと完全にメンヘラもしくは怪しい宗教といったところですが、当時はマジメにこういった連絡をする女性が後を絶ちませんでした。かくいう私も……ウッ。のちに自分たちが本当に前世で一緒だったと思い込んだ末の集団自殺事件にまで発展、雑誌社が「前世の仲間へ呼びかける投稿をやめるように」と勧告を出すまでになります。

承認欲求を満たすハードルは高かった

 このように「私がただの人間で終わるはずない、自分はもっと特別な何かでありたい」という承認欲求は、1980年代の女子にも当然宿っていました。しかしその一方で「自分の前世は○○だ」と考えて世界観を作り、さらに雑誌社へ投稿しなくては認知すらされない……という難しさも抱えていたのです。当時、「特別な誰か」になるためにはそれなりの努力が必要でした。

 これを変えたのが、2000年代から登場した「ブログ」です。自分でHTMLを組まなくても情報を発信することができるサービスによって「認められたい」女子は次々にブログを開設しました。2006年には全人口の100人中3人が「頻繁にブログを更新している」状態にまでなります。(出典:総務省

 しかしその一方で、ピーク時でも全ブログの2/3は「更新停止」している状態でした。長文を書く作業は誰にでもできるわけではなく、承認欲求が燃え尽きたほとんどの人たちはブログから離れていたのです。

「誰でも手を出せるドラッグ」と化したSNS

 ブログが下火になる一方、2004年からはmixiが登場。SNSが群雄割拠する時代へ突入します。「人はそれほど長文を打てないが、手軽に承認欲求を満たしたがっている」と言うニーズを抑えた最新のSNSは短文あるいは文字なしでも、手軽に近況をアップロードできるツールとなりました。

 その結果、承認欲求を満たすためのハードルがどんどん下がり、ネットに赤裸々な欲求をぶつけることができるようになってしまったのです。かつては掲載に至るまでの準備段階でそぎ落とされ燃え尽きていった承認欲求ですが、手軽になればそんな必要もありません。

 誰でも手を出せるドラッグのように人はSNSへハマり、前世の代わりに「AKBになれるはずの私」や「素敵な夫とパンを作る休日写真」など承認欲求をフルヌード未修正で掲載するようになってしまったのです。

 SNSによって離れていても人の近況がわかるようになり、国際料金なしの無料通話を実現するなど多くのメリットがもたらされました。その一方、「昔はアダルトコンテンツを買うのに本屋の店員と対峙する恥ずかしさを乗り越えたものだ、それが今やワンクリックだからなあ」と揶揄されるように、承認欲求もワンクリックどころかワンタップで満たせるようになってしまったのです。


★次回はクリエイティブな人は本来「迫害」されるもの……陽の当たる場所をうらやむリスクについて、お伝えします。


Text/トイアンナ

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