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  • 2016.07.12

自分を押し殺すことは人生を踏みにじること――マイノリティへの幻想

フロリダにあるゲイクラブで起こった大量無差別殺人事件。悲しい事件をきっかけに考えられるのは、社会や家族との関係と、自らのセクシュアリティや自分らしさとの折り合いのつけ方について。淑女として「自分らしく」生きるために必要なこととは。

自分の居場所を見つけられるか?

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©Tyne & Wear Archives & Museums

 ちょっと前、フロリダのゲイクラブで大量無差別殺人が起こりました。
事件が起こった当初、ISによるテロだとか、ゲイに対するヘイト(憎悪)による殺人だとニュースで伝わってきましたが、詳細を追っていくと、どうも本当の動機は別のところにあるようでした。

 無差別殺人を行った男は既婚で熱心なイスラム教徒でしたが、ゲイのアプリを利用していて、事件が起こったゲイクラブにも常連として顔を出していたとのことでした。

 私はこの話を聞いたときに、「アメリカン・ビューティー」という映画を思い出しました。
この作品は会社をクビになった中年男が、自分の娘の同級生に恋をすることで、自由と若さを取り戻していくお話で、アメリカ人の抱える現実や孤独、ナイーブな愛情などを描いています。
その映画の中に、厳格な家庭を持つ軍人の隣人男性が出てきます。
実はその男はクローゼットのゲイで、誤解から大変悲しい事件を起こしてしまうというシーンがありました。

 ちなみにクローゼットのゲイとは、カミングアウトをしないでクローゼット(押入れ)に隠れているゲイのことを言います。
当事者が亡くなってしまったので、詳細はハッキリしませんが、今回の無差別殺人を行った男もクローゼットのゲイだったと思われます。
だけど「アメリカン・ビューティー」の頃にはなかったゲイ用のスマホアプリやネットの情報などで、その頃よりはるかにゲイ・コミュニティにアクセスしやすくなって、接点を持ってしまったのです。

繋がってしまった世界の悲劇

 コミュニティと接点を持ってみたものの、その中に溶け込むことができず、イスラム教であることをからかわれたり、またルックスもそのナイトクラブの本流とは違うタイプだったとも情報が流れています。

 ゲイ(オネエ)はマイノリティで辛い思いをしてきているから、みんな仲良しでフレンドリーというのは幻想です。
ゲイは男性の良い面と女性の良い面を併せ持つ傾向がありますが、同時に男性の嫌な面と女性の嫌な面を併せ持つ生き物です。

 ゲイはリアルで仲間とつるむときに、男性ならではの経済力でグループ分けしていますし、女性ならではの美醜でもグループ分けします。
またはっきりと性嗜好でコミュニティを分離させます。
“○○専”という外見の嗜好によるカテゴライズも、ゲイが30年くらい前から使っていたものです。

 年齢によってもコミュニティは分断されていますし、東京では遊ぶ街も変わります。
プライベートで遊ぶわけですから、気を遣ったり、苦手だなと思う人わざわざつるまないですよね。

 フロリダの地方都市のナイトクラブというのは、そういった線引きが曖昧であったことが予想されます。
日本でも地方都市のゲイバーというのは、老若男男入り混じって、細分化されない傾向があります。
ゲイの母数が少ないと、いろいろな嗜好の人が交じり合うコミュニティができるのです。さらにナイトクラブではそこにお酒が入って、やり取りが増幅されます。怨恨も生まれるかもしれません。

 ただでさえ、父親から宗教を強要され、結婚をさせられ、それでもやっぱり同性との出会いを求めてアプリなどを介して、やっと20代後半にたどり着いたコミュニティで、宗教や外見を揶揄され、排除された。

 私も同じ境遇だったら、脳内で何人か殺しているかもしれません。
確実に丑の刻参りくらいはしているでしょう。
でも、それを実行するかしないかは大きな違いです。だから実行したその犯人には同情の余地はありません。
社会にはやっていいことと、いけないことがあるのです。

命の意味を考える

 この事件を通じて、私は、自分の力を発揮できる居場所を探すことは、何にも優先して行わなければならないことだと思いました。
いけ好かない奴は、いつの世にも、何処にでも居ますから、そんな奴を恨む時間よりも自分が楽しめて、力を発揮できるコミュニティや仲間を探した方が良いのです。

 親と意見が合わないなら、そこを逃げ出して良いと思います。
大都会に出て、気の合う仲間を探せば良い。
すぐにできないならば、まずはお金を貯めてから出てくれば良い。 周りの人に親不孝だ、自分勝手だと非難されても、自分が楽しんだり、力を発揮できずに生きることの方が、せっかくいただいた命への冒涜だと私は考えます。
多くの方の犠牲と犯人の背景から私が考えたことです。


Text/肉乃小路ニクヨ

ライタープロフィール

肉乃小路ニクヨ
東京の片隅でひっそり生き続けるちょっぴりしょっぱくてサワーなニューレディー。オーバー40歳、崖っぷち女装

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