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  • 2016.07.09

痴漢にあっても私のせい?彼氏の言いなりになっていた日々

束縛するタイプの彼と付き合っていた、20歳の頃の大泉さん。彼と付き合っていたのは、束縛も一種の愛の形であると、親から教え込まれていたからでした。しかし、そんな彼と別れるきっかけとなった事件とは何だったのでしょう?

彼氏の言いなりで「自分」で居られなくなる

大泉りか 人妻は不倫の夢を見るか?
©Chiara Cremaschi

 二十歳の頃に付き合った男性は、「恋人を束縛するタイプの人」でした。

 もちろん、それまでも幾人もの男性と、付き合ったりセックスをしたりしていましたが、「束縛する人」というのは初めてでした。
合コンや水商売といった色恋を目的とした場所に出入るするのはもちろんのこと、地元の男友達と遊びに行くのもダメ、女友達と飲みにいくのすら、嫌な顔をするし、どこかに出掛けた場合は「帰ってきたコール」が必須で、しかも、それが遅い場合は「明日、朝早いのにいつまで待たてるんだ」とクレームがつくので、自然と日付が変わるくらいの時間までには家に戻っていなくてはならないわけです。

 なぜいちいち、恋人のいうことを聞くのかというと、それは相手が、「わたしのことを好きだからこそ、束縛している」と、言葉や行動で示してくるからでした。
そして、その束縛に応えることが愛だとも示唆してくるのです。そもそも、わたしは「束縛してしまうのも、愛の一種である」と考える癖があるようです。
高校時代、我が家の門限は夜の9時に設定されていました。

 しかし、遊びたい盛りのわたしは、度々破っては母親から、怒りの説教を食らったり、さめざめと泣かれたり、「こうして、わたしが怒ったり泣いたりするのは、あなたのことが大切で心配だからなのに!」と、激情をぶつけられ、ほとほとウンザリしながらも、自分の快楽のために、そんな母親の気持ちを無碍にすることにかすかな罪悪感を持っていました(ちなみに、大学に入ると同時に突如、門限はなくなり、無断外泊さえも、咎められることは一切なくなりました。聞いたところ、「大学生に門限なんておかしいじゃない。お母さんも大学からひとり暮らしだったし」とさらっと言われ、「なにその勝手な子育て哲学!」と呆れた覚えがあります)。
なので、「心配して早い帰宅を望まれる」のは、愛の形として、そうおかしくないもの、珍しくないものだったのです。

 わたしは、その恋人の愛に応えるべく、言いつけを守るようになりました。
水商売のバイトも合コンもクラブ通いも辞めました。
代わりに近所の喫茶店でバイトを始めて、帰りにビデオ屋でレンタルビデオを借りて帰り、恋人からのただいまコールを待つのが、毎日の日課となりました。

 といっても、たまに友達と遊びに行くことについては、どうしても辞める気にはなれず、週に1度くらいは、夜まで遊びに出ることもありました。
向こうも付き合い始めの頃は、一応は理解はしてくれたものの、しかし、最終的に出してきた結論は「けれど、やっぱり嫌だ」なのでした。

「嫌だ」という感情論に持っていかれてしまうと、もうどうしようもありません。
今はもう、そういう人のことは「あの人はビョーキだから」と一歩引いて関わらないようにしていますが、そんな防御法を知らなかった当時、わたしが出来たのは、なんとか状況を上手く転がすことしかありませんでした。

 友達と遊んで遅くなる時は、ある程度の時間のところで「眠いから、寝るね。お休み」とメールを送っておく。
電話を掛けてくることを防ぐために、恋人が家に帰る前に送るのがポイントで、しかし、あまりに早いとそれもまた怪しまれる。
送信ボタンを押す瞬間は、一種の賭けでもありました。

 たまに怪しまれながらも、表面的には上手く行くようになりました。そして、上手くやっている自分、事態を見事に捌ききっている自分に対して「よく出来てる!」という満足感もありました。

 しかし、つかなくてもいい嘘がどんどんと積み重なっていくことの負担のほうがずっと大きかった。
相手への後ろめたさだけでなく、「ありのまま」でいられていない自分の窮屈感が常につきまとって、離れないのです。

痴漢に遭ったのは「私」のせい?

 そんなある時のことです。
その日、喫茶店でのバイトを終えて、自転車で帰途についていた時のこと。
わたしが当時住んでいた実家は、電灯の少ない、住宅地を入った奥にありました。
しかも、住宅地が途中で途切れて梅の木やキャベツの生産緑地といった人気のない場所を通るために、たまに痴漢が出るという話もあり、実際にわたしも何度か遭遇していました。

 自転車を漕いでいると、後ろから車がすっと徐行してくるのがわかりました。
「嫌だな」と思いながらひたすらにペダルを漕いでいると、が、後ろから

「ねぇ、キミ、どこに行くの?」

と話しかけられたのです。

「帰るところです」
「ちょっと車の中でおしゃべりしない?」
「しません」

拒絶の言葉を発しながら、ふと車の中の男性に目をやると、その男性は下半身丸出し。
左手は屹立したペニスをシコシコと弄っていたのです。

 慌てて自転車のペダルに力を入れると、アクセルを踏んだ音がしました。
自転車に横当たりにぶつけられて倒されてはたまらないと思って、慌てて携帯電話を取り出すと、恋人に電話を掛けましたが、何回かコールした後に留守電に切り替わってしました。
役立たず!仕方なく、繋がったふりをして、「あー、もしもし、わたし。もうすぐ家なんだけどさぁ、そっちは? あっ、迎えに出てきてくれる? ありがとう」と、さも電話の向こうの相手と会話している風を装うと、男はしばらくの間、わたしをジロジロと眺めた後、やがて諦めたのか車のスピードを早め、あっという間に追い越して走り去っていきました。

 ようやく家にたどり着き、何頃もなく痴漢が過ぎ去ったことに安心して、一息ついていたところ、留守電を聞いた恋人からコールバックがありました。
「どうしたの?」というので、怖かったことを伝えたくて「いま、バイト帰りに家の近くで変質者につきまとわれて。痴漢に」と言ったところ、返ってきたのは「はっ? 夜道をうろうろしてるからだろ。お前が悪いよ」という言葉でした。

 まさか被害者であるわたしが、責められるとは思っておらず「バイトの帰りなんだから、仕方ないじゃん」と言い返すと、「だったらバイト辞めろよ!俺に心配かけさせるなよ!!!」

 恋人に、きっと悪気はなかったと思います。
しかし、あまりに自分勝手すぎる言葉に、さっと心が冷めました。

俺とは何様だ。
どんだけのものだ。

結局、この一言が、この恋人と別れたきっかけになりました。
次に会った時、別れを告げると「なんで?」と理由を聞きたがりました。
「痴漢にあった時に、わたしの心配するよりも前に自分のことばっかりだったから」とは言えませんでしたが、彼は「ずっと大切にしてきたのに、なんでだよ」と泣いていました。

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Text/大泉りか

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ライタープロフィール

大泉りか
キャバ嬢、SMショーのM女、ボディペインティングのモデルなどの経歴を経て、現在は官能小説家、ライトノベル作家。

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