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  • 2015.06.20

血縁なんて関係ない!夫婦、友人、恋人…愛で結ばれ包まれていく『愛を積むひと』

東京での仕事をやめ、老後のために北海道へ移住してきた夫婦とその周囲の人々の多様な「愛」を描く作品『愛を積むひと』。妻に先立たれてしまい悲しみに暮れる旦那の元に、生前妻が書いた手紙が届き…。そこから再び人と人とが愛で結ばれ包まれていく感動の展開を迎えていきます。

「奥さんが先に亡くなるも、後から手紙が届く」というあらすじは、映画『P.S.アイラブユー』を彷彿とさせましたが、蓋を開けると全く別の映画でありました。
原作はエドワード・ムーニー・Jr.の小説『石を積む人』。映画化に当り、舞台は北海道へと変わります。美しい北海道美瑛の風景が四季折々にスクリーンを彩るのも本作の魅力です。

 佐藤浩市と樋口可南子演じる夫婦は、絵に描いたような仲良し中年夫婦といったところでしょうか。不器用で無愛想な夫とお喋りで明るい妻。それが夫婦のバランスをうまく取っていて、無愛想な夫から溢れ出る隠すに隠せてない愛情が見ていて微笑ましくなります。

柳下修平 愛を積むひと 死 覚悟 映画
©2015「愛を積むひと」製作委員会

 この無愛想で不器用なダメ夫を、佐藤浩市は魅力たっぷりに演じます。妻がいないと何もできない夫なんです。しかし、妻には持病があり長くは生きられないかもしれない。それを覚悟していた妻は死後を案じて、独りになる夫のために準備をし始めるのです。

 それが手紙。複数用意された夫への手紙が旦那の残りの人生を奮い立たせるのです。

 その二人の夫婦の物語は映画の半分。もう半分は高校生カップルの波瀾万丈なエピソードを描いています。
このカップルは、佐藤浩市と樋口可南子演じる夫婦の家の石塀作りの手伝いで派遣された、野村周平演じる杉元徹という高校生と、その彼女で杉咲花演じる上田紗英。この二人のエピソードが小さな街での事件へと発展します。

 夫と妻、父と子、母と子、自分と他人、恋人など、様々な人と人との繋がりが「愛を積み」、「愛を紡いで」いきます。

 自らが愛情を抱く人を想像して見ると良いかもしれません。この愛情は男女に限らず、誰を思って見ても、きっと登場人物と当てはめることができるはずです。
特に既婚者や子持ちの方は自らの対象者を思い、愛が溢れ涙が止まらなくなるかもしれません。


血縁なんて関係ない「愛する」ということ


 後半にクローズアップされるテーマが「血縁の無い親子愛」です。

 登場人物の一人に血縁のない父親がいます。しかし血縁がなくとも妻の子に愛情持って、時に厳しく時に優しく、時に強制し、時に尊重して接していきます。「血が繋がってればもっと…」と不安を吐露するのも、愛しているからこそ。

柳下修平 愛を積むひと 死 覚悟 映
©2015「愛を積むひと」製作委員会

「血の繋がっていない子どもを愛することはできるのか?」

 という命題に対して、

「そんなのできるに決まってる」

 と行動で示しているのです。

 そして、さらに後半へ進むに連れ、その命題は故意的に存在感を増していきますが、同時にその答えは映画の前半で既に出ていたことに気付かされます。

 映画の前半は夫婦の愛ある物語です。冷静に考えれば、子どもと血は繋がっているものの、夫婦の血は繋がっていませんよね。

 しかしその男女は、(血の繋がりがなくても)愛し合い、結婚し、永遠を誓って夫婦となるのです。その愛は永遠に続かないこともありますが、映画の佐藤浩市と樋口可南子演じる夫婦は、死という別れを経験しても夫は妻への愛を失わずにいるのです。


覚悟を決めた人は美しい


 本作の夫婦像は理想的な部分とそうでない部分があります。いかんせん、妻は自らの病状を夫に伏せたまま亡くなっています。残される側からすれば、最後の別れくらい、別離と覚悟して感謝を述べたかったかもしれません。
とは言っても、妻は「もう長くない」と死ぬ覚悟を持って、愛する夫をケアするために全力で死後の準備をしていくわけです。信頼できる周囲の人の助けも借りて。

 自らの残された時間が僅かだと知ったら、人によってはショックで寝込んでしまい、余計に余命が縮まってしまうもの。
こういう時、覚悟を決めた人の行動力は本当に凄まじく見事であると改めて痛感させられます。それは死という覚悟でなくても同じでしょう。覚悟を決めた人は美しいです。


柳下修平 愛を積むひと 死 覚悟 映
©2015「愛を積むひと」製作委員会

 本作では「死ぬ覚悟」「生む覚悟」「愛する覚悟」「受け入れる覚悟」「許す覚悟」など様々な覚悟が描かれます。そして、それぞれの登場人物が覚悟を決めてから、とても美しく光り輝いています。

 生きている中で覚悟を決めなくてはならないターニングポイントは必ず訪れるもの。
人生は全て思うようにはいかないかもしれませんが、覚悟を決める時は決めて、後悔のないように、余命の長さに関わらず「人生を全うしたい」ものですね。


6/20(土)全国ロードショー

監督:朝原雄三
キャスト:佐藤浩市、樋口可南子、北川景子、野村周平、杉咲花
配給:アスミック・エース、松竹
2015年/125分
URL:映画『愛を積むひと』公式サイト

Text/柳下修平

ライタープロフィール

柳下修平
1986年生まれ。映画ライター・ブロガー。100人規模の映画ファンイベント「映画ファンの集い」主催者。

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