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  • 2015.04.24

過去の恋で傷ついた心に塩を塗るような『ラスト5イヤーズ』のリアルとシビアさ

『イントゥ・ザ・ウッズ』のシンデレラ役も記憶に新しいアナ・ケンドリックが、またもや美声を披露するミュージカル映画『ラスト5イヤーズ』。しかし、このミュージカルは歌って踊っての賑やかさの中に、私たちの終わった恋を思い出させる強烈な力を持ちあわせています。

 この映画の舞台は現代のニューヨーク。舞台女優を目指す女性・キャシーと小説家を目指す男性・ジェイミーの出会いから別れまでを描いた物語です。それを様々な歌と独創的な時間軸構成で描いていきます。

 この冒頭の一文で「ネタバレじゃないか!」と思われるかもしれませんが心配無用。なぜなら本作は、二人が破局したところから物語が始まるからです。とは言っても、結末から少しずつ前に遡っていくという単純なものでもありません。

 ・女性・キャシーは、別れから出会いまでの時間を辿っていきます。
 ・男性・ジェイミーは、出会いから別れまでを時間軸通りに進んでいきます。
 ・その2つのストーリーが1曲ずつ交互に描かれいくのです。

 ミュージカル映画として見事なのが、この2つの時間軸(気持ち)がぴったり合致するのが皮肉にも結婚式という「幸せの絶頂」であること。
やがて終わってしまう結婚生活の結末を知っているので、モヤモヤしかない残らないんです。

柳下修平 映画 ブロガー 映画が描く愛のカタチ リチャード・ラグラヴェネーズ アナ・ケンドリック ジェレミー・ジョーダン ブロードメディア・スタジオ ラスト5イヤーズ ミュージカル 別れ 結婚 離婚
© THE LAST FIVE YEARS THE MOTION PICTURE LLC

 ここまで読むとこの映画はヘヴィー級で面白くないのか?と思われてしまいそうですが、そんなことありません!終わってしまう結婚生活をミュージカルで描くことで、気持ちをストレートにぶつけ合え、テンポ良く進んでいきます。

 なんといっても、アナ・ケンドリックとジェレミー・ジョーダンの歌唱パフォーマンスが見事で、映画への引力がかなり強く、この世界観にのめり込んでしまいます。だからこそ、男女のすれ違いと破局を、否が応でも自分事として見つめられるのです。

 鑑賞後には自然と過去の恋愛を見つめられているはず。思い出したくないこともあるかもしれませんが、過去の傷って「振り返りたくない」という言い訳が邪魔して反省できなかったりするもの。

  ミュージカル形式にした意図はきっと、そんな傷ついた人の心を分かっているから。優しさに包まれながら、楽しんで自らの過去も振り返られる…非常に優れた映画に仕上がっています。


結婚してない「すれ違い」、結婚してる「すれ違い」


 本作の男女は、結婚した後に破局をします。よって「何となく惚れてあなたと付き合ったけど、私はあなたと価値観合わないの!もうさよならよ!」なんていう軽々しい破局ではありません。

 そこが何よりリアルで、本作の破局の原因もまさに皮肉そのもの。
男女片方だけ仕事で大出世して、片方は出世しないどころかスタート地点にも立ててないレベル。それがすれ違いを生んでいくのです。

「仕事と私どっちが大事なの!?」なんていう文句は、恋愛においてテンプレートのように存在していますが、「結婚すれば一緒に住めるし、仕事のサポートもできる」なんていうのが、いかにバカバカしく何も考えていないかを痛感させます。

 ただしこれは「結婚したら家庭に入りたい。旦那を全身全霊で支えたい」と思っている人は問題ないです。その場合は、成功していく旦那を支えていくのみですからね。

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© THE LAST FIVE YEARS THE MOTION PICTURE LLC

 本作が厄介でリアルなのは男女共に目指しているものがあること。結婚して仕事以外の時間を二人で過ごせたとしても、片方は大成功しているのに、かたやスランプ継続中であれば、もう劣等感しか感じないわけです。

 しかも大成功側は、自分のパーティーを開催してしまうほど。パートナーとして出席することで、より劣等感を生む結果に…。

 自らに置き換えたらこれは確かに辛いです。例えば、私の妻が小説家でベストセラー記念パーティーを催すとしましょう。
私が仮に、俳優志望でオーディションに落ちまくっている状況で「主人です」なんて紹介されても、「あー、はいはい、どうせ何も成功してない肩書だけ主人ですよーだ!」とか不貞腐れますね。
それをその場で出さずに大人な対応ができたとしても、内心はそう感じている人が多いと思うんです。

「恋愛って難しい」は様々なラブストーリーが示してきていますが、「成功と失敗の両面を抱えている夫婦生活って難しい」を本作は示してきます。


同性間でも異性間でも語り合うべき映画


 本作は非常にリアルな夫婦生活の難しさを描いています。夫と妻の支え合いやセックスの相性などは描かれません。それは、セックスの相性の問題があっても、努力を伴えばきっとそれ以上に素敵な関係になれるから。

 でも、それ以上に越えるのが難しいハードルを「お互いの成功」としています。
大いに議論すべき映画だと思うんです。それは作品の出来に関してではなく、主役二人について。

「私はキャシー派(女性派)」
「いや私はジェイミーの気持ちがわかる(男性派)」

 そんな議論を自らの経験と価値観をもって赤裸々に語りたくなります。
私はというと「ジェイミーの成功にキャシーは妬み過ぎだし、もう少し支えてやれよと思う。でも、自分が同じ立場になったら、きっとキャシーと同じことをしてしまう」。
つまり、理想はジェイミーだけど、現実はキャシーなんだなと思いました。あくまでも私はですけどね。


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 この議論にゴールも出口もないでしょう。夫婦や恋人、友人とこういった議論や雑談をして、自らの過去を少し思い出してみると良いかもしれません。

 一つだけ大切なことがあります。この議論の意義は「みなさんの未来の幸せのために」です。それを忘れないでください。

 みなさんが本作を通じて、より幸せ溢れる未来を築き上げることを願っています。


4月25日(土) YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

監督・脚本:リチャード・ラグラヴェネーズ
キャスト:アナ・ケンドリック、ジェレミー・ジョーダン
配給:ブロードメディア・スタジオ
原題:The Last 5 Years/2014年/アメリカ映画/94分
URL:映画『ラスト5イヤーズ』公式サイト

Text/柳下修平

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ライタープロフィール

柳下修平
1986年生まれ。映画ライター・ブロガー。100人規模の映画ファンイベント「映画ファンの集い」主催者。

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