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  • 2015.03.13

彼はなぜ同性愛者に?暗号解読に人生を捧げた男の苦悩『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』

第87回アカデミー賞「脚色賞」を受賞した作品『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』が3月13日に公開。「コンピュータの父」と言われるアラン・チューリングの伝記映画ですが、悲痛なゲイムービーでもあり、強がる女性を描いた作品でもあります。

 本作は、第ニ次世界大戦時にナチス・ドイツが生み出した世界最強の暗号"エニグマ"を解き明かした天才数学者・アラン・チューリンの人生を描いた伝記ドラマです。

 当時、ナチス・ドイツにかなりの劣勢を強いられていたイギリスは、逆転勝利するため「暗号解読」に注力します。そのトップシークレット国家プロジェクトへ担がれたのがアラン・チューリングでした。

     
柳下修平 映画 ブロガー 映画が描く愛のカタチ モルテン・ティルドゥム ベネディクト・カンバーバッチ キーラ・ナイトレイ マシュー・グード ロリー・キニア アレン・リーチ マシュー・ビアード ギャガ The Imitation Game 同性愛 カミングアウト 第二次世界大戦 暗号解読
© 2014 BBP IMITATION, LLC

 暗号解読シーンをエンタメ要素で楽しませ、彼の功績を中核に添えながら、「アラン・チューリングとは何者だったのか?」という彼の内面も同時に描いていきます。

 彼の身に起きた戦後の悲劇。そして、そのきっかけとなった幼少期のいじめと、彼を助けたある人物とのエピソードが明らかになるにつれ、物語は意外な結末を迎えます。

 大傑作です。脚本や演出や音楽の素晴らしさはもちろん、ベネディクト・カンバーバッチとキーラ・ナイトレイの熱演など様々な要素が胸を打ち、あまりにも悲しいラストには涙が止まりません。


   

男がゲイに変わる瞬間


 この作品に関して傑作印は保証できるものであり、暗号解読シーンや演技を褒める記事は多く見受けられます。
しかし、今回は少し視点を変えて、この映画が描く「男がゲイに変わる瞬間」についてお伝えします。

 アラン・チューリングは同性愛者であり、映画の中でカミングアウトしています。
当時のイギリスは同性愛を犯罪とみなしていたこともあり、戦後にある青年と一夜を共にした容疑でアラン・チューリングは逮捕されていまいます。

 彼はなぜ同性愛者になったのか。それをこの映画は明確に描いています。そこにはエロティックさは皆無です。何かにドキドキにしたり、不意に男を経験して同性愛に目覚めたりしたわけでも、男性のふとした仕草に性的魅力を感じたわけでもありません。

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© 2014 BBP IMITATION, LLC

 彼は、ある一人の男性を愛する気持ちから少しずつ芽生えていったのです。閉ざされた絶望の扉を、ある男性が開けたと言っても過言ではないでしょう。
それは、彼の少年時代にさかのぼります。男女問わず、いやらしいことを考えても少しもおかしくない多感な時期。しかし彼は、そういういやらしさを持って同性愛には目覚めていません。

 詳細な言及は避けますが、もし私がアラン・チューリングと同じ状況になったら…私も男性の性的魅力を感じていたかもしれません。少年時代のあの一連のエピソードと、その後、彼が恋した男性に起きた悲劇を考えれば、そうなるのは当然と思いました。

『ブロークバック・マウンテン』という映画がそうですが、男性同士のセックス、つまり二人が結ばれる行為を見せられた後に別れが訪れると、強い切なさを感じ、胸が締め付けられます。

『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』に男性同士のラブシーンはありません。それなのに本作は、今まで私が見てきた同性愛を描く映画の中で、群を抜いて胸を締め付けられました。その理由は明らかで、少年時代に彼がゲイに変わった瞬間を目撃したからです。

 本作が描く「ゲイに変わる瞬間」、それは今まであまり描かれてこなかったタイプでありながらも、どのエピソードよりも説得力のある同性愛への目覚めでありました。


   

女が強がる瞬間


 ここで言う「女」とは、キーラ・ナイトレイ演じるジョーン・クラークのことです。
アラン・チューリングは同性愛者でしたが、ジョーン・クラークとは婚約をしました。婚約の理由は、時代が故のことでありました。

 しかし、アラン・チューリングは同性愛者。あるタイミングで彼はカミングアウトをします。それを受けた瞬間の、彼女のリアクションは非常にリアル。一瞬驚きつつも、彼を受け入れようとするのです。これが見ていて辛いんです。

 恋愛において、発した言葉と本心が伴っていないことってありますよね。「大丈夫だよ」と言いながら大丈夫じゃないとか、「仕方ないよ」と言いながら内心傷ついていたりとか。まさにそれです。

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© 2014 BBP IMITATION, LLC

 ジョーン・クラークはカミングアウト以外でも、アラン・チューリングを支えようと、動じない姿勢で彼を励まします。これらシーンのキーラ・ナイトレイの熱演は素晴らしいもので、「強い女性を演じていて見事だ」という意見が多いのも事実です。

 しかし、それはちょっと違います。
「強い女性として振る舞う弱い女性を演じたキーラ・ナイトレイが見事」なのです。なぜ彼女はそこまでできたのか。それは彼を愛していたからでしょう。優しい嘘です。

「女が強がる瞬間」とは、本音とも建前とも言えますが、そこに愛は確かにありました。
彼女の発した言葉や態度は、ある種、男が理想とするものでもあります。しかし、少し透けて見えるんです。それは彼女の本音ではないことが。これがとても悲しい。

 その絶妙な表情を見せたキーラ・ナイトレイの演技が見所なのは言うまでもありません。


   

コンピュータを使う全ての人へ


 第二次世界大戦モノである映像の壮大さ。暗号解読映画としての面白さ。アカデミー賞「主演男優賞」ノミネートのベネディクト・カンバーバッチと、「助演女優賞」ノミネートのキーラ・ナイトレイの熱演。そして、ゲイに関するエピソードや女性がつく優しい嘘。

 本作は様々な切り口で、様々なことを考えさせられる深い映画であります。しかし、決して難しい映画でありませんので、安心してください。

  “全ての人へ”なんて偉そうなことは言いません。
しいて言うなら、“スマフォやパソコンといった電子端末、また世の中に無数と存在するコンピュータシステムの恩恵に生きている人”に、ぜひ見ていただきたい。結果として、ほとんどの人になるとは思いますが。

 この映画のラストシーンはあるテロップで終わります。
一番最後に出る一文のテロップ、その一文を噛み締め、アラン・チューリングとジョーン・クラークが辿った栄光と悲劇に思いを馳せてみてください。

 コンピュータへの価値観、同性愛への価値観、それらを再考するきっかけになることでしょう。


3月13日(金)TOHOシネマズ みゆき座にて全国ロードショー

監督:モルテン・ティルドゥム
キャスト:ベネディクト・カンバーバッチ、キーラ・ナイトレイ、マシュー・グード、ロリー・キニア、アレン・リーチ、マシュー・ビアード
配給:ギャガ
原題:The Imitation Game/2014年/英米合作/115分
URL:映画『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』公式サイト

Text/柳下修平

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ライタープロフィール

柳下修平
1986年生まれ。映画ライター・ブロガー。100人規模の映画ファンイベント「映画ファンの集い」主催者。

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