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  • 2015.07.02

死をもってお詫びをしたい 「こち亀」を最終話まで読み終えてから

【7月のテーマはおうちデート】自分の部屋、彼氏の部屋など、プライベートな密室で起きた様々な恋愛の形。彼氏がベッドに私を上げてくれないのはベッドが壊れるから?童貞喪失は幼馴染にレイプされたから?密室の中にたくさんのドラマがありました。

佐々木あらら 初体験 処女 童貞 卒業 エロ短歌
Courtney Carmody

 今週からは「おうちデート編」。自分の部屋、彼氏の部屋など、プライベートな密室で起きた恋愛怨霊メモリーを募集しております。

 僕が初めて一人暮らしをしたのはアパートとかではなく、一軒家でした。それも街から10分ほど急な山道を登ったところにある、山小屋のような小さなあばら家。

 当然、めったに客は来ませんでした。近くにコンビニなどあるはずもないので、夜は基本的に自炊。都会では見たこともない奇妙な虫が次々出てくる台所で安い酒を飲みながら、練習がてら料理をつくって過ごすのが夜の日常でした。

 ある夜中、退屈しのぎににんじんのポタージュを大量につくっていると、当時の彼女から電話が。かなりいらだっているようでした。理由は忘れましたが、たぶん僕が浮気をしたとかだったんでしょう。彼女は怒りを抑えつつ「話し合いをしたいから山を降りてきてくれ」と僕に告げました。

「ごめん、いま料理中で家を出られない」といったんは断りました。もちろん、自分が不利になる状況から少しの間だけでも逃げていたかったからです。

「じゃあ今からそっちに行く」と彼女。先延ばしは難しそうでした。僕は観念し、すぐ訪れるであろう修羅場を覚悟しながらポタージュを漉し続けました。

 1時間ほどして、彼女が到着。僕への怒りのせいか、真っ暗な山道を迷いながら歩いてきたせいか、息が上がっていました。話し合いなんてとうていできないぐらいに。

 彼女を座らせ、落ち着くのを待ちました。特に考えもなく、大量につくってしまったポタージュをコーヒーカップに注ぎ、渡しました。

「おいしい……」

 適当につくったスープは奇跡のバランスだったようで、どうやら彼女の出鼻をくじいてしまったようでした。もしかしたら許してもらえるのかも、と少しだけ期待しましたが、もちろんそんなにうまくいくはずもなく、すぐに持ち直した彼女は、

「こんなおいしいものを突然出されて、何から言い始めていいかわからなくなったじゃない!」と怒り始めました。「そういうところがイラつくのよ!」とも。

 そんなわけで、僕の脳内に棲まう怨霊からは、今でもほんのりとにんじんポタージュの匂いがします。

 あれから15年も経つのに、女の子を怒らせるたびに、意識の下に少しだけポタージュを漉す映像が再生されてるし。なんとなくあれ以来にんじんのポタージュをまったくつくってないし。

 さて、そんな僕の怨霊メモリーを超える怨霊に満ちたエピソードが、今回も集まっております。ではご紹介。

いつも畳の上でセックスをしていました

パエリアさん(愛知県)
エピソード:
 元彼の話です。
 イケメンで大企業勤め、10歳年上の彼は私にとって自慢の彼。わたしの自宅の近くの一軒家で一人暮らしをしていました。
 デートはもっぱら彼の家で、いちゃいちゃ。もちろんセックスも彼の家。幸せだったけど、不満がひとつだけありました。それは、彼が絶対にベッドで抱いてくれないこと。
 理由は、ベッドのスプリングが悪くなるから。そのため、いつもするのは和室の畳の上。布団もひかず、そのままです。
 この状態が1年続き、
「わたしよりベッドの方が大事なのでは……?」
と思い、色々あってさよならしました。

騎乗位で膝を畳に擦りつけわたしの心も擦りきれる(パエリア)

 うん、それは間違いなく、あなたよりベッドのほうが大事です。

 正確に言うなら、あなたより自分の生活スタイルを守るほうが大事だったんでしょうね。

 彼の気持ち、かなりわかるんですよ。独身生活が長くなると、自分の日常を充実させるためのアイテムが徐々に増えてきて「聖域」化してきます。ベッドだったり、ソファだったり、同じメーカーで買い揃えた調理器具だったり、オーディオセットだったり。

 そういうものに囲まれた一人だけの時間が「ちゃんと生きるためのジンクス」みたいになっていくんですね。ライナスの毛布とは言わないまでも。

 彼にとってのベッドは、ただのベッドじゃなくて、生活のルーティーンを守る祭具だったのでしょう。ひとりで眠る前に「あ、あのときのセックスのせいでスプリングがちょっとおかしくなってるな」と気になり始めたら、もう生活すべてのリズムが壊れてしまうかもしれないから。

 そういう男と長く付き合うためには、「そのライフスタイルの隙間にちょうど入る都合のいい愛」か「そのライフスタイルに強引に割り込んでいく破壊的な愛」しかないです。おそらくその結果として彼は長いこと独身なんでしょう。

 ま、お金ありそうなんだから、ホテルに行ったり、せめて毛布買ったりぐらいはしても良かったんじゃないの、って話ではあるけれど。

 短歌、音数とか助詞とかをちょっと整えるともっとかっこよくなりそう。

騎乗位は畳で膝がすりきれる 愛もだんだんすりきれている

 みたいに。まあお好みでご自分でいじってみて、ちょうどいいところを考えてみてください。そんなことをしているうちに、ベッドに負けた思い出も怨霊と一緒にどっかに飛んでくと思うよ。ひざの痛みもね。

「レイプされた」と言いふらしてしまいました

太一さん(千葉県)
エピソード:
 初めまして、男ですが読んでます。とても勉強になるサイトです。
 このサイトを読んでいたら、自分の最低なエピソードを思い出してしまいモヤモヤが取れなくなり、投稿します。
 僕は20歳になるまで童貞でした。正確には19歳と10ヶ月まで。
「20歳までに童貞を捨てなきゃいけない」というのを気にして、とても焦っていました。
 そのとき、僕の家によく遊びに来ていた仲の良い幼なじみがいました。
 その日、自分の部屋でいつものように彼女に
「俺はなぜ童貞なのか」
みたいなことを愚痴っていると、彼女は優しく笑いながら
「そんなにヤりたいならヤる?」
と言ってきました。
 本当にそんな気はなかったのですが、彼女は強引に僕を押し倒すと、触り、脱ぎ、と順序良く進めていきました。
 僕はショックを受けてしまいました。彼女はもっと清純で分別のある子だと思っていたので。
 コトを済ませると彼女は何事もなかったかのようにシャワーを浴び、布団を敷いて寝てしまいました。
 朝になると、もう既におらず、その日からもう連絡しても返ってこなくなりました。
 そのあと僕は、この体験を友達に言いふらしました。
「レイプされた、こんな童貞の捨てかた考えもしなかった」と。
 本心では童貞でなくなったことにほっとしていたのに。
 当時の自分の自尊心や無知さをいま彼女に改めて謝罪したいです。

同情と呆れと哀れの性交渉失ったのは童貞だけか(太一)
ヤりたいと言ってたようなもんだよとレイプしたのは僕の方だね
童貞と君との関係捨ててから僕はそれでも幼いままです
朝起きて送ったメールに返事なく幸せになってくれていますか

 短歌、たくさんいただきました。ありがとう。もやもやがいっぱいあると創作活動は活発になるものですね。並べてみたらいろんな角度から苦しむ気持ちが伝わってきてよかったので、全部載せてみました。

 エピソードも、ダイソーの「ザ・童貞」のコーナーにずらっと並んでそうなぐらいに見事に童貞らしい後悔です。

「かっこよく童貞喪失をキメたい!」という理想と、あんまりかっこよくない形で初体験を済ませてしまった現実との差を充填するためのパッキンとして、太一さんの無意識の怨霊が生み出してしまった方便が「レイプされた」だったのでしょうね。

 その怨霊の名前を、僕は知っています。こいつは「性差別」という怨霊です。

 読者諸姉からすれば「何をくだらないちっぽけなことで」とお怒りとは思いますが、「初体験からきちんと男として機能しなければならない」という童貞のプレッシャーというのは、「女はこうあらねばならない」という「性役割の押し付け」の悪習を別の角度から見ているだけのことです。

 童貞時代の太一さんの心の中にあった「男はこうあらねばならない」という差別的な男女観が、まだ若くて繊細だった心を深く傷つけてしまったのですね。

 こういう価値観というのは個性としての「自尊心」というよりは、もっと社会的に植え付けられたものだと思います。家族だとか所属するコミュニティだとか読んだり見たりしてきた作品などを経由して寄生してしまった罪深い怨霊です。そして、それと向き合ってきちんと現実を背負っていけば、変わることができます。

 太一さん、その後、自分の中の「こうあらねばならない」という怨霊の声に左右されていませんか。喧嘩をしても二人だけで新しいルールを作っていく恋愛、できていますか。

 そういう風に向き合っていくことが、幼なじみの彼女に対する何よりの贖罪になるのではないかと、思いますよ。

守れない約束ばかりする君を最後に許すため歌う歌

「密室・おへやデート」編、まだまだ募集中です。

 というわけで本日はここまで。来週も引き続き同じテーマで募集しております。今回のいろんなエピソードを読んで記憶のフタが開いちゃった方、ぜひ教えて下さい。

 長く書いてくれても嬉しいです。こちらでうまいことリライトいたしますので、気にせずに思うままに書いてきてくだされば。

 こちらのフォームから。ぜひぜひ。

Text/佐々木あらら

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ライタープロフィール

佐々木あらら
阿佐ヶ谷生まれ阿佐ヶ谷育ちのエロ歌人

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