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  • 2014.04.01

戦う女の手柄を横取りしない!タキシード仮面こそ理想の男性/『セーラームーン 完全版』

 少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃——いつか自分も恋をしたい。
そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。

 時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。
むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり? 
この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。

第2回:サポートする王子様
『美少女戦士セーラームーン』

トミヤマユキコ セーラームーン 少女漫画
美少女戦士セーラームーン 完全版(9)/武内直子・著/講談社

『美少女戦士セーラームーン』ブームが再燃しております。
20周年を記念した変身アイテムの復刻、コラボ商品の発表、ミュージカル化などなど、気になる企画が盛りだくさん。
雑誌のセーラームーン特集もいくつか見ましたが、どれも20年前の作品とは思えぬアツさ。
みんなの中で長いこと眠っていた「セラムン愛」が時を超えて目覚めたのですね。

 かつて少ないお小遣いに頭を悩ませていた少女たちも、いまや大人の女になり、セラムン関連に心ゆくまでお金を落とせる。

 これぞ最高の贅沢。

 わたしも早速、コミック『美少女戦士セーラームーン 完全版』(講談社)を購入しております。

『セーラームーン』に登場するのは、変身・戦闘・恋愛する美少女たちです。
戦闘ヒーローものの「紅一点」として闘う美少女たちはそれまでにも大勢いましたが、少女たちだけでチームを組むセーラー戦士たちは、当時とても画期的でした(彼女たちがいたからこそ「プリキュア」シリーズや「魔法少女まどか☆マギカ」のような作品が生まれたとも言えますし)。

 しかも、戦闘スタイルが非常にオシャレかつフェミニン。
機能性より様式美が優先されています。
闘うことは、男並みに強くなることでも、泥まみれになることでもないのよ! とばかりに、長い髪をなびかせ、ミニスカートのセーラー服姿で華麗に闘う彼女たちの強さと美しさは、いま見てもたまらないものがありますね。
エロくてかわいくてカッコいい……。

変身できない王子様・タキシード仮面

 そんなセーラー戦士に憧れる一方で、ヒロイン「月野うさぎ」の前にたびたび現れる「タキシード仮面」にうっとりしていた方もいるでしょう。
本作における王子様がタキシード仮面であることはまず間違いないと思うのですが、しかしながらこの王子様、カッコよさの種類がなんだかちょっと独特です。

 まず、うさぎをはじめとするセーラー戦士たちは、魔法の力で変身し闘うのですが、タキシード仮面は、どうやら魔法が使えないみたい……ということは、人前に出るたびにタキシードに着替え、仮面をつけていることになります。
某SNSで「自分であんなカッコして街を歩くなんて変態なんじゃないのかw」というツッコミを見たことがありますが、たしかに否定できないかも……彼がふつうの学生「地場衛(ちばまもる)」に戻っている間、タキシードをクリーニングに出したりしているのでしょうか。
だとしたらすごいマメ。

 ちゃかしているように思われるかもしれませんが、そうではありません。
むしろ、変身できない王子様というのは、『セーラームーン』にとってすごく大切な設定であると思われます。
タキシード仮面はすごくイイ男だし頭も切れるけれど、魔法は使えないし、喧嘩が強いワケでもない……肝心なところでけっこう「非力である」ということが、彼を独創的な王子様にしているのです。

セーラームーンたちを勝利に導いていくタキシード仮面

 前世は「プリンス・エミディオン」という名の高貴な王子様だったというタキシード仮面。
まさに王子様だったワケですが、現世では時折タキシードを着て街を徘徊する男子学生です。
そんな、どう考えても戦闘に不向きな彼がやっているのは、主にセーラー戦士たちのサポート。
つまり、セーラームーンたちをもり立て、勝利に導いていくのがタキシード仮面の使命だといえます。

 男が先頭に立ってぐいぐい引っ張っていくのではなく、女が先頭に立ってずんずん進んでいけるように支える。
それがタキシード仮面なのです。
男女平等の世の中になったとは言いつつ、社長が男で秘書が女、総合職が男で一般職が女、みたいな図式がまだまだ根強い日本社会。
しかしそんな図式には目もくれず「サポートするのは女の仕事」という価値観をバッサリ捨てて、サポートする男のカッコよさをこれでもかと見せつけるタキシード仮面、マジで惚れる。
彼の姿にどれほど多くの女の子たちが勇気づけられたことでしょう。
愛する男をサポートするだけが女の幸せではない、愛する男にサポートされることもまた、女の幸せなのだ……タキシード仮面の登場は、男女完成の理想像をアップデートするものだったのです。

いつも この人があたしに力をあたえてくれる
あたしと「幻の銀水晶」に
信じられない勇気が 力が わいてくる どんどん 強くなれる
(『美少女戦士セーラームーン 完全版』2巻より)

 セーラームーンが、敵のボスキャラ「クイン・メタリア」に最後の戦いを挑むシーンのなんと感動的なことか。
ここには、サポートする王子様とサポートされるヒロインという関係性だけでなく、愛する王子様と愛されるヒロインという関係性も同時に描かれています。
戦うことと愛することのマリアージュ。
愛されるほどに、身も心も強くなる。
愛されてるから戦える。
わたしを愛してくれる人は、決してしゃしゃり出てこないし、戦う女の手柄を横取りしたりもしない。


 うわーん!やっぱりカッコいい!

 なんでも女より優れていないとプライドが傷ついてしまう男子は、サポートする王子様ことタキシード仮面がいかに多くの女子たちに愛されてきたかを知って、一から出直して欲しいものです。

Text/トミヤマユキコ

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ライタープロフィール

トミヤマユキコ
ライター・研究者。早稲田大学非常勤講師。

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