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  • 2014.02.14

恋愛に翻弄されても「してあげてる」を感じさせない!受け身のプロ/『失恋ショコラティエ』

 少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃——いつか自分も恋をしたい。
そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。

 時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。
むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり?
この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。

第1回:流される王子『失恋ショコラティエ』

トミヤマユキコ 少女漫画 王子様 恋愛論 失恋ショコラティエ
by natalie.brenner

『失恋ショコラティエ』がわたしたちに与えてくれる潤い感は、まるでSK-Ⅱのようだなと思う今日この頃。
マンガ版、ドラマ版の両方をチェックしているところなのですが、エロいわ切ないわ大変な騒ぎですよ。
キュンとしたりジュンとしたりしているうちに、小じわが消え、シミが薄くなりそうな勢いとでもいいましょうか……少女マンガの世界は作り事だと分かっていても、心と体が反応してしまう上質のフィクションです。

 本作の特徴は、なんと言っても「男が主人公の少女マンガ」だということ。

 チョコレートをこよなく愛する「サエコさん」に恋してしまった主人公「爽太」がプロのショコラティエになるお話なのですが、これって少女マンガでよくある「好きな人のために努力する主人公」の男女反転バージョンですよね。
あの人のことが大好きだけれど、そのままの自分には魅力も取り柄もないから、何かひとつ目標を定めて努力する。
そんな自分の成長っぷりをあの人から認めてもらえれば、晴れてカップルが成立しハッピーエンド! という少女マンガ的展開については、みなさんもよくご存じのハズ。

トミヤマユキコ 少女漫画 王子様 恋愛論 失恋ショコラティエ
『失恋ショコラティエ』水城せとな・著/小学館

 しかし『失恋ショコラティエ』のストーリーは、努力→成長→愛情ゲットという少女マンガ的「王道」からどんどん外れて行きます。
なぜなら、サエコさんは、平気で二股をかけたり、男を取り替えまくったり、気づいた時には人妻になっていたりと、フリー期間が全くない女だから。
他の人との恋愛で忙しく、爽太のことがちゃんと見えていないんです。
それなのに一途な爽太を翻弄するので、見ていてほんとにムカつきますが(笑)、爽太は彼女の計算高さみたいなものをぜーんぶ分かった上で「でも好き!」だといい続けます。

 つまり『失恋ショコラティエ』とは、努力の報われる可能性がめちゃくちゃ低いところでがんばり続ける男の物語であり、悪い女を愛する男の物語でもあるのです。

 彼女の全てを愛し、彼女のために職業も選んじゃう……ありえないほど受け身な爽太ですが、そんなに卑屈じゃないし、ストーカーっぽくもない。
それがこの作品の面白いところであり、不思議なところでもあります。

恋愛に翻弄されながらも「してあげてる」を感じさせない!

 なぜ彼がここまで受け身なのにステキな王子様たりえるのか?
それは、彼の受け身があまりにも徹底的だからです。

好きな人のために人生を捧げてはいるのですが、「自称」ご奉仕系男子にありがちな「〜してあげてる」感じが全然しない!
決して見返りを求めていないワケではないのだけれど、その匂いをさせないところが、彼のすごいところです。

 そもそも、サエコさんへの片想いは、爽太の一目惚れからスタートしていますし、ショコラティエになろうと決めたのも爽太自身です。
誰かのために生きてはいるけど、人生の選択を誰かのせいにはしない、それが爽太という王子様のステキなところ。

受け身のプロだからこそ受け入れられる、セフレとの友情関係

 爽太がモデルの「エレナ」と知り合ってすぐセフレになるという展開も、やはり受け身のプロと思わずにはいられません。
ふつうであれば「え!あんなにサエコさんのこと好きとか言っておきながらお前マジか!」となりそうなものですが、彼の受動性からすると「まぁ、爽太だったら受け入れるだろうな」と思ってしまいます。

  エレナも爽太と同じように苦しい片想いをしている仲間なのだと教えられ
「あたしずっとその人を想って一生誰とも抱き合わないで生きていかなきゃだめなの? 誰とも触れ合わないでずっと一人でいかなきゃいけないのかな…」
と訊かれ、お互い好きな人が変わらないからこそセックスができるのだと言われ、それを受け入れてしまう爽太のブレなさよ。
チョコレートが大好きとか、誰かと体を重ねたいとか、誰かの(とくに女の!)欲望を引き受けられることは、爽太の美点なのです。

 そうやって誰かの欲望を引き受けているうちに、爽太の人生は彼自身にも予測のつかない方向へと流されてゆきます。それを主体性がない、考えが足りないと責めることはたやすい。
しかし逆に、自分が何をすべきか、自分に何が向いているかを他人との関係性の中で決めていく、という態度もアリなのではないでしょうか。

 少なくとも爽太は、実家がたまたまケーキ屋さんだったことと、たまたま好きになった相手が無類のチョコレート好だったということからショコラティエになるという道を選びましたが、それでちゃんと成功しています。
彼の「たまたま」を生かす力は、案外侮れません。

他者の欲望に敏感になれることが流され王子の魅力

「海賊王に俺はなる!」といったどデカい目標を持った男子は、確かに頼もしいし、ワイルドでいいなとも感じますが、目標がデカすぎて、他者のちょっとした欲望には鈍感そう。
その点、爽太のキメ細やかな心配りは、まるで彼の作るチョコレートのように丁寧でデリケート。
恋愛に翻弄されて生きる爽太は、一見軟弱そうに見えますが、強いリーダーシップを発揮することだけが王子様の条件ではないことを教えてくれているようにも思えます。

Text/トミヤマユキコ

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ライタープロフィール

トミヤマユキコ
ライター・研究者。早稲田大学非常勤講師。

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