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  • 2017.02.15

好きなオカズしか入ってない漫画『金の国 水の国』の乗っかり上手な王子様

口コミの「量」よりも「圧」がすごいというのは、その作品が語りたくなるものだということ。そんな漫画が「このマンガがすごい!2017(オンナ編)」の第1位に輝いた『金の国 水の国』。賢いのにヤンチャやれる最高な王子様が登場するこの漫画の魅力を、トミヤマユキコさんが「圧」をもってお伝えします。

 少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃——いつか自分も恋をしたい。そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。

 時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり? この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。

第10回:好きなおかずしか入ってないお弁当のような「金の国 水の国」

トミヤマユキコ 推せる!マンガの王子さま 岩本ナオ 金の国 水の国
『金の国 水の国』/岩本ナオ(著)/ 小学館

「このマンガがすごい!2017(オンナ編)」の第1位に輝いた岩本ナオ『金の国 水の国』愛されるマンガの特徴として「口コミの〝圧〟がすごい(量ではなく)」という特徴があると常日頃思っているわたしなのですが、この作品がまさにそうでした。

 もうね、単行本発売直後から、周辺のマンガ読みたちに「ところで『金の国〜』読みました? え? まだ? なんで?」てな具合で質問攻めにされたり、まったく関係ないビジネスメールの最後で急に「早く読んで感想を送ってくださいよ!」と迫ってきたり、とにかく圧がすごかったんですよ!しかも男女ぜんぜん関係ナシ!

 それもそのはず、本作はたった1巻の中に「2国間の争いとその解消」という歴史物語があり(スケールがデカい)、その中に「最初からヒーロー&ヒロインではない、二軍男女の恋愛物語」が描かれ(こっちは逆に超繊細)、しかも「犬と猫が出てくる」(超かわいい)という、「好きなおかずしか入ってないお弁当」みたいな状態になっているのです。この贅沢感、このムダのなさ、そりゃ愛も芽生えるわ、という感じです。かくいうわたしもすっかり夢中になってしまいました。

 物語は、A国とB国の争いを鎮めるため、神様が両国間で「一番美しい娘」と「一番賢い若者」を贈り合うよう指示するところからはじまります。しかし、元々諍いの絶えない両国のことですから、そんないい人材を素直に送るわけがない。その結果、A国のおっとり系お姫様「サーラ」のところには犬の子「ルクマン」が、B国の貧乏土木設計技師「ナランバヤル」のところには猫の子「オドンメチグ」が贈られてしまいます。

 しかし、サーラもナランバヤルも、そのことを表沙汰にしません。ふつうだったら「コケにされた!」とブチ切れていいところだと思うのですが、何故かそうしない。ふたりとも「乗っかり上手」な性格とでも言うのでしょうか、事を荒立てるよりは、流れに乗っかりながら、次の一手を考えるタイプなのです。

 王子様としてのナランバヤルは、この「乗っかり上手」な性格で、サーラをはじめ、多くの人々を救っていきます。冒頭では、サーラに贈られたお婿さんの役を演じて欲しいと頼まれ、ふたつ返事でOKしていますし、A国とB国の国交回復を阻止したい輩に暗殺されそうになっても「あっしはこんなとこでくたばってるヒマはねーんでさあ」と、さらに危ない所へ突っ込んでいく。
彼の「乗っかり上手」とは、つまり「後に引かない」能力の高さ。技師として培ったインテリジェンスと、持ち前の勇敢さをうまく使いながら、決して後に引くことなく、前へ前へと進んでいくナランバヤルは、すごくカッコいい王子様です。賢いのにヤンチャやれるって最高……!

スペックの良さに甘んじない二人の王子

 実はこの作品には、もうひとりの王子様がいます。A国の第一王女をはじめ数々のセレブ女を虜にしている左大臣「ムーンライト=サラディーン」です。
「歌って踊れてトークもできるA国一のイケメン俳優」、デビュー時のキャッチコピーは『漆黒の砂漠の夜を照らす月明かり』……と、絵に描いたようなチャライケメンのムーンライトは、女たちをメロメロにしている一方で、左大臣としては「お飾り」だと舐められてもいます。しかし、そんな彼にナランバヤルが「俺も王女様のあんたが頼りだぜ」と言い、国交回復に向けて動くよう背中を押すと、自身の政治的立場をフル活用し、目的を達成しようとがんばります(このシーン、チャライケメンだからってバカにしないナランバヤルもいい男なんですよね〜)。

 つまりこの物語には「賢い王子様」と「イケメンの王子様」が出て来ており、しかもふたりは「努力する王子様」でもあるわけです。スペックの良さに甘んじることのない姿勢が、彼らをより輝かせている……結局のところ、学歴とか見た目のよさを評価されて満足しちゃう男ってダサいですからね。変化や進歩がある男が、やっぱりカッコいいですからね。

 作品を読んでもらえればわかるのですが、サーラは可愛らしいけれど、決して美人ではないですし、ぶっちゃけぽっちゃりしすぎのお姫様です。が、ナランバヤルは、そんなサーラに心底惚れ込んでいます。賢くて、努力もできて、女を容姿で判断しないし、猫に「オドンメチグ=星の輝き」なんて名前をつけちゃうロマンチストだけど、ナルシストじゃない(むしろ照れ屋)。

 なにこれ。嫌いになる要素がひとつもないじゃないか。ストーリー自体もですが、王子様の性格も「好きなおかずしか入ってないお弁当」みたい……わたしはもうお腹いっぱいです(幸せ)!

Text/トミヤマユキコ

ライタープロフィール

トミヤマユキコ
ライター・研究者。早稲田大学非常勤講師。

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