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  • 2016.11.17

『俺物語!!』は恋愛観を変えた!?新時代の王子は男の沽券ゼロのオクテ男子

鈴木亮平さんで実写映画化もされた少女マンガの傑作、『俺物語!!』がついに今年の7月で完結しました。AM読者にも『俺』ロスの方がいらっしゃるんじゃないでしょうか?トミヤマユキコさんが、「新時代の王子様」である剛田猛男と大和凛子の恋愛模様の新しさを、いま改めて考え直します!

 少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃——いつか自分も恋をしたい。そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。

 時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり? この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。

第7回:素直に「好き」「不安」と伝える!
新時代の王子様『俺物語!!』

トミヤマユキコ 推せる!マンガの王子さま 俺物語!! 鈴木亮平
©「物語!!」/河原和音 (著)/ アルコ (イラスト)/ 集英社

 わたしの胸キュン供給源であった『俺物語!!』が終わってしまい、完全に『俺』ロスです。

 すでに実写版も公開され(鈴木亮平サイコーでしたね)、続編やスピンオフの噂もいまのところ聞かないし、この先どうやって生きていけばいいんだ。
人生経験積み過ぎて、ちょっとやそっとのことでは納得しないアラフォー女をきゅんきゅんさせ、なんだったら泣かせてしまうマンガなんて、そうあるもんじゃないのに!

 キスより先を当たり前のように描く少女マンガがたくさんある中で、本作はゴリラみたいにデカくて体力自慢の「剛田猛男」と、お菓子作りが得意なほんわかヒロイン「大和凛子」の高校生カップルを、あくまで爽やかに、どこまでもピュアに描きました。しかも、それがむかしの少女マンガに退行しただけの「先祖返り」ではなかったところがたいへん素晴らしいと思います。

 爽やか&ピュアなのに先祖返りではないとは、一体どういうことか?
それは、初めての恋愛にアタフタする男子を、心理面もふくめて丁寧に描いたところが今までありそうでなかった、というのがわたしの見立てです。

 満員電車で痴漢に遭った凛子をたまたま助けた猛男は、そのことがきっかけで自分が惚れられるなんて1ミリも思っていません。一緒にいた自分の友だち「砂川」の方がイケメンだしモテるので、凛子も当然砂川に行くだろうと考えたのです。このように、猛男は自分を「恋愛できない方の人間」だと思い込んでいます。ですから、いざ凛子と付き合いはじめても、恋愛素人すぎて、彼女の気持ちに気づいてあげることができません。

 これが、「好きな男子がなに考えてるのかわからなくて戸惑うヒロイン」という設定であれば、よくある少女マンガなのですが、戸惑ってるのがまさかのゴリラ男子・猛男であるという「男女反転」ぶりがたまらない。
鈍感で、ガサツで、ニブチンの猛男が、懸命に凛子を愛そうとしている。お勉強が苦手な猛男が、一生懸命に考えて、知恵を絞って、彼女と付き合ってゆく様子は、健気のひとこと。カップルが成立してからもなお、気を抜いていないというか、ずっと片想いっぽいというか…うう、猛男~! 付き合ってくれ~!

「大和 何してるかな/バルセロナはまだ昼だな/大和 笑ってるか/離れていても 大和の笑顔がいつも心の中にいる/オレを強くしてくれる/オレも 大和をそんな気持ちにできているか?/離れていても大和の笑顔を守れているか?/大和にとって/そんな男でいられているか?」
……これは、バルセロナと日本で遠距離恋愛中の猛男のモノローグです。
恋する女子の胸に去来する、喜びや悲しみ、不安といった感情を、実は男子だって感じているんだ、というごく当たり前のことを、「男の沽券」とか「要らぬプライド」で覆い隠してしまうのではなく、素直に「好きだ!」「不安だ!」と語れる猛男。彼のような男こそ、きわめて現代的な「新時代の王子様」と言えるのではないでしょうか。

『俺物語』がもたらす、恋愛観の地殻変動

 誰よりも男らしい見た目でありながら、恋する気持ちに関しては、女子より女子っぽいピュアさを持っていることを素直に認める、猛男のような王子様を見ていると、恋する気持ちに共感しつつも、圧倒的な男の肉体に萌えたりもして、なんというお得感なんだ! と思わずにはいられません。

 ちなみに、イケメンで、勉強ができて、察しがいい砂川の方が、よっぽど少女マンガの王子様っぽいのに、彼は最後まで猛男のサポート役であり続けるというのも、『俺物語!!』のおもしろい所です。

 さまざまなアピソードを通じて、彼がいかにデキた人間であるかが語られるのですが、誰ともカップルになることなく(ちょっとした恋愛エピソードは出てくるのですが)、ただひたすら猛男の親友として存在しつづける。これが恋愛をテーマとする少女マンガであることを考えれば、イケメンの無駄遣いと言ってもいいくらいですし、よく考えたら、かつては砂川みたいなイケメンが主役で、その脇に猛男みたいなニブチン男子が配置されてたんじゃなかったっけ? と考えると、この作品が、王子様像だけでなく、脇役像もアップデートしているということに気づかされます。

 ただの娯楽かと思いきや、案外読者の恋愛観に影響を与えているのが少女マンガ。だとすれば、猛男のような男をカッコよく描くことで、恋愛観の地殻変動が起こるかもしれません。
「ただしイケメンに限る」という時代が終わって、イケメンにも色んなタイプがいる(猛男にも砂川にも惚れられる要素はあるし、べつに優劣などない)と考える少女たちがいずれ大人になったとき、世界はいまよりずっと平和になるかも…ちょっと大袈裟でしょうか? 

 でも、イケメンの多様性を追求し、新しい王子様像を提出した本作が後世に与える影響については、長期的に観察したい、する価値がある。そう思います。

Text/トミヤマユキコ

ライタープロフィール

トミヤマユキコ
ライター・研究者。早稲田大学非常勤講師。

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