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  • 2016.10.18

祝ドラマ化!『逃げるは恥だが役に立つ』に見る心を閉じた男と武将のように策士な女

少女マンガにおける“理想の王子様像”を分析する、トミヤマユキコさんの連載。今回はTBS火曜10時放送中で話題の『逃げるは恥だが役に立つ』について考えます。エンディングで新垣結衣と星野源が踊る「恋ダンス」が可愛いと、すでに秋ドラマで高視聴率を出している本作ですが、その原作(海野つなみ著)もきっちり読み込んでいきましょう。


 少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃——いつか自分も恋をしたい。そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。

 時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。 むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり?

 この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。

第6回:閉じてる王子様『逃げるは恥だが役に立つ』

トミヤマユキコ 推せる!マンガの王子さま 逃げるは恥だが役に立つ 逃げ恥 ドラマ 星野源 新垣結衣
『逃げるは恥だが役に立つ』/海野 つなみ/講談社


『逃げるは恥だが役に立つ』(以下『逃げ恥』)は、就活に失敗し、派遣会社に登録するも派遣切りに遭ってしまった25歳の「みくり」が主人公。無職になった彼女は、父親の元部下である「津崎」のマンションで家事代行のバイトをはじめ、やがてお互いの利益のため“契約”結婚しますが、さまざまなハードルが待ち受けていて…というお話です。

 みくりたちの結婚は家事労働にお給料が支払われるシステムなので、女子のお仕事マンガとして読むのもおもしろいですし、はじめは形だけの結婚だったつもりが、お互い相手のことが気になっていく展開を、恋愛マンガとして読むのも当然おもしろい。つまり、1粒で2度美味しい作品です。

雇用主としては魅力的な「独身のプロ」


 津崎は神経質なメガネ男子で、ひとことで言うと「理性の人」。みくりとの契約結婚に踏み切ったのは、その方がメリットがあると計算したからですし、同居生活がスタートしてからも、なるべく働きやすい環境をみくりに提供しようと頭を使います。とにかく合理的でムダがない。ちょっと冷たそうだけど、このひとが雇用主だったら仕事やりやすいだろうなあ、という感じがします。

 しかし、ひとりの男子としては、恋愛経験に乏しく、それゆえ女性に対して奥手。「独身のプロ」を自称し、諦めモードに入っています。というか、恋愛だけでなく、人間関係全般が苦手そう。ふだんから無口で、自分から誰かに接近し、打ち解けようとする様子が見られません。メガネの奥の瞳がなかなか見えないので感情が読めないですし、世界に対して壁を作ってる感じがある、ありすぎる。

 他者とかかわることをストレスの素と捉え、避けようとする津崎の人生は、ムダがないと言えなくもありませんが、どこか味気ないですし、人間関係の厄介ごとを引き受けられないことを、子どもっぽいと受け取られる可能性もはらんでいます。

その心を開かせたい、執着する女


 しかし、津崎のように閉じてる男を見ると燃える女っていますよね! 誰にでも心を開けるわけじゃないからこそ、「わたしにだけはその心、開かせてやる」と思って、つい執着してしまう女…ああ、過去の恋愛がいま走馬燈のように…身に覚えがありすぎます。

 女の働きかけによってじわじわと変化しやがて花開く「閉じてる王子様」。それが津崎です。性欲に働きかけるだけではビクともしないし、かといって、近くでニコニコ見守っているだけでもダメ。かの有名な「北風と太陽」では、最後に太陽が勝利しますが、津崎の場合は、太陽がさんさんと降り注いでもなお、「どうせいつか沈む…」と、悲観しそう。

 そう考えると津崎はずいぶんとめんどくさい男ですが、だからこそ攻略しがいがあるというもの。大学院で心理学を学んでいたというみくりのスペックは、就活ではあまり役に立ちませんでしたが、津崎に向き合う上では、ものすごい武器となります。

 難攻不落の城を攻め落とす武将の心持ちで、さまざまな戦略を同時に仕掛けるみくりは、なかなの策士です。

誰かを愛することが、 誰かを変えてしまう暴力に似てしまう恐ろしさ


 ちなみに、先日放送を開始したドラマ版『逃げ恥』では、みくり役を新垣結衣が、津崎役を星野源が演じているのですが、星野源は、イケメンでもなくブサイクでもない津崎の「7割男子」な見た目をトレースし、さらに閉じてる感もあって、想像していた以上に津崎でした。

 閉じてる王子様は、言ってみればお城の塔に閉じ込められているお姫様みたいなもの。それを救い出せる女は、勇猛果敢で才知にたけた騎士みたいなもの。つまり、典型的な恋愛ストーリーにおける男女役割が反転しているのです。

 注目すべきは、閉じてる王子様に向き合う時、女は自分の強さとか賢さを肯定的に捉えられるということ。それって、女子にとってけっこう嬉しいことなのではないでしょうか。少なくとも合コンで大学院生だとバレて「バカだと思われるとイヤだ」とか言われ男子に逃げられる経験をしたわたしにとって、モテの場で賢さは邪魔というイメージがあるし、でも何も悪いことしてないのにそれを隠すのもつらい。だからみくりが学歴のことなど一切考えず津崎とまっすぐに向き合っているのは、見ていてとても気分がいいのです。

 しかし、閉じてる王子様は、女の自己肯定感を高めるがゆえに、ひとりよがりな行動を引き越す危険性があります。閉じてる男を開かせようとすることが、無理強いと変わらなくなってしまう場合もあるわけです。誰かを愛することが、誰かを変えようとする暴力に似てしまう恐ろしさを『逃げ恥』は教えてくれます。

 ですが、そうした悲劇を起こさないために、みくりも津崎も、慌てず騒がず、一進一退を繰り返しながら前進してゆく。本作では、その一進一退が、じれったさとなり、わたしたちの胸キュン(ムズキュン※ドラマ版)を誘います。

 なお、津崎の同僚「風見」は、ただ生きてるだけでモテて、しかも思ったことを正直に言うので、津崎と真逆の「開いてる王子様」です。

 みくりは津崎にご執心なので、風見にはそこまで興味がないのですが、実は、開いてるように見える男にこそ、閉じてる部分が隠されているもの。それに気づこうもんなら、みくりの恋愛はいよいよ面倒くさいことになりますので、ひとまずみくりには、シンプルに閉じてる王子様、津崎とうまくいって欲しいものです。

Text/トミヤマユキコ

次回は<『俺物語!!』は恋愛観を変えた!?新時代の王子は男の沽券ゼロのオクテ男子>です。
鈴木亮平さんで実写映画化もされた少女マンガの傑作、『俺物語!!』がついに今年の7月で完結しました。AM読者にも『俺』ロスの方がいらっしゃるんじゃないでしょうか?トミヤマユキコさんが、「新時代の王子様」である剛田猛男と大和凛子の恋愛模様の新しさを、いま改めて考え直します!

ライタープロフィール

トミヤマユキコ
ライター・研究者。早稲田大学非常勤講師。

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