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  • 2014.07.10

不良男子とのプラトニックな純度100%の恋愛!少女性が蘇る/能年玲奈主演で話題『ホットロード』


 少女マンガに登場するステキな王子様に胸をときめかせていたあの頃——いつか自分も恋をしたい。
そんな風に思いながら、イイ男とは何か、どんなモテテクが効果的なのか、少女マンガを使ってお勉強していたという人も少なくないハズ。

 時は流れ大人になっても、少女マンガによって植え付けられた恋愛観や理想の王子様像は、そう簡単に劣化するものではありません。
むしろ王子様の亡霊に取り憑かれて、リアルな恋愛がしょぼく思える人もいたり?
この連載では、新旧さまざまなマンガを読みながら、少女マンガにおける王子様像について考えていきます。

第4回:あぶなっかしい王子様『ホットロード』

トミヤマユキコ 推せる!マンガの王子さま ホットロード
marvin L


 紡木たく『ホットロード』は、少女マンガ×ヤンキーカルチャーという組み合わせが奇跡のような化学変化を起こしている作品です。
泣けるし感動できますが、泣いてスッキリというよりは、その奥底に沈殿する痛みとか切なさが後を引く感じ。

 1986年から約1年半にわたって雑誌掲載されたのち、単行本化や文庫化を繰り返し、いまや累計700万部を突破しているといいますから、まさに少女マンガ史に残る名作のひとつです。
それにしても、この複雑で繊細な感情表現が日本中が浮かれていたバブル期に描かれたなんて、なんだかウソのようです。

 身近にヤンキーや暴走族がいない読者にとって、本作はまさに「異世界の物語」ではないでしょうか。
不良たちの生活、ファッション、恋愛……それらは、独特の価値観によって支えられています。

 集団での暴走行為や鉄パイプで喧嘩することは危険というより興奮することで、仲間の溜まり場に行くとレイプされる危険性があるかも知れないのに楽しくて、みんな家庭環境に問題がある寂しさを抱えた子どもだけど妙に大人びている……危ないことやいけないこと、不幸なことや悲しいことが渦巻いているのに、彼らの世界はある種の連帯感によってなんとも言えない温もりを帯びていて、世間のほうがずっと冷酷で無慈悲に見えるのです。

不良っぽいあぶなっかしさと憂い顔の二面性王子様・春山

トミヤマユキコ 推せる!マンガの王子さま ホットロード
ホットロード (1) /紡木たく・著/集英社


 本作では、万引きとかはするけれど、ギリギリ普通の中学生の側に踏みとどまっている主人公「和希」が、徐々にヤンキー化してゆきます。
ですので、ふつうの読者が和希に感情移入しながら読むと、高確率で心がヤンキー化するでしょう。

 個人的な話で恐縮ですが、中学生のわたしは『ホットロード』をはじめて読んだ時、和希になりたすぎて、オキシドールで髪の色を抜こうとしたことがあります(結局、一度やったぐらいでは何も変わりませんでしたが)。
わたしには、愛する女のためになら「いつだって死ねる」とか、ある日突然「おまえ オレの女にならない?」とか言ってドキドキさせてくれる王子様などいないというのに!

 本作の王子様は、和希の交際相手「春山」です。
実家を出て、ガソリンスタンドで働きながら暴走行為を続ける不良男子(物語のスタート時はなんと16歳)。

 暴走族という組織に属しながらも一匹狼的で、カッコイイことはカッコイイのですが、その前にとてもあぶなっかしいのが特徴。
たったひとりで大勢を相手に喧嘩をしたり、下手したら死ぬとか警察に捕まるとかいった行為を平気でやったり。
そのくせいきがっているだけガキとは少し様子が違って、なにか深く考え込んでいるようなところもある。憂いのある不良なのです。

プラトニックな純度100%の恋愛で、
あなたの「少女性」が呼び覚まされる


 強さと弱さが共存するこの王子様を意のままに操るのは至難の業。和希も大変な苦労をしています。14歳の女の子には荷が重すぎる。
近づいたと思ったら離れてゆくタイプの男なので、春山がリアル彼氏だったら死ぬほどめんどくさいワケですが、マンガの中で和希になりきって春山を追いかけていると「純度100%の愛で尽くしてるわたし」に酔いしれることができます。

 しかもふたりはキスまでしかしないんです!
本作にもしもセックス描写があったら、和希がうっかり妊娠してヤンママになる未来しか想像できないんですが、ふたりは最後までヤらない。
同棲までしているのに、ヤらないという徹底ぶり。このプラトニック・ラブにはものすごい浄化作用があるように思います。

 とくに、長年の恋愛遍歴の中で、交際相手のことをまずスペックで判断してしまうようになった三十路オーバーの読者を「愛こそが全て」という気持ちにさせてくれるのです。

 いまのマンガ界には、リアリティ追求型の恋愛マンガたくさんあって、自分とよく似た人に感情移入しながら読むことができるようになっています。
現実的で打算に満ちた恋愛もたくさん描かれています。

 しかし、そんな時代に敢えてあり得ないほどピュアな恋愛マンガの古典を読むことで、自分の中に眠っていた少女性が呼び覚まされる。
「死んだと思ってた少女性、生きてた」という驚きと感動。その意味で本作は己のピュアネスを再発見するための装置なのです。

彼が成長し、世間の方へやってきたとき、
あなたの妄想が爆発する


 ところで、本作のラスト近くで春山に「あること」が起こり、それをきっかけに今まで散々やってきたあぶなっかしい行為を自粛するという展開があるのですが、不良少年を卒業し、一気に大人びていく春山から、なにやら色気のようなものが出ていることが気になります。

 そしてこの色気に反応するのは、和希になりきった「少女としてのわたし」ではなく、現実を生きているあなた自身だろうと思うのです。

 まだ若いのに、酸いも甘いもかみ分けていて、いざとなったら鉄パイプで暴漢から守ってくれて、普段は愛とか恋とか言わないくせに、子猫にだけそっと恋心を打ち明けてしまうような男が、暴走族を引退して、世間の方へとやってくる。

 世間の荒波を乗り越えまくっているお姉さんとして、手ほどきしてあげたいという気持ちがうずきます。
「和希ちゃんを好きなままでもいいから、ね?」とか言いたい……そんな妄想がとめどなくあふれてしまうほど、この作品に仕掛けられた「あぶなっかしい王子様の成長」は、魅力的なのです。

Text/トミヤマユキコ

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ライタープロフィール

トミヤマユキコ
ライター・研究者。早稲田大学非常勤講師。

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