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  • 2013.08.29

瀬戸内寂聴原作!満島ひかり×綾野剛×小林薫が三角関係に揺れる『夏の終り』

【今回は「密かに磨く、エロしぐさ」で連載中の鈴木みのりさんによる特別編!
満島ひかりさんの妖艶な演技からイロイロ学べそうです。】

 瀬戸内寂聴さんが1963年の女流文学賞を受賞し、作家としての地位を確立する契機となった短編小説『夏の終り』を原作に、『ノン子36歳(家事手伝い)』、『海炭市叙景』などで不器用に生きる人々を描いてきた熊切和嘉監督によって映画化、そのうえ寂聴さんの実体験をベースにした私小説の主人公・知子を演じるのは今もっとも旬で他の追随を許さない全身全霊の演技が光る満島ひかりさん。

夏の終り 熊切和嘉 宇治田隆史 瀬戸内寂聴 新潮文庫刊 満島ひかり 綾野剛 小林薫 クロックワークス
©2012年映画「夏の終り」製作委員会

 この三拍子だけでも観たい衝動が抑えられないけど、それに輪をかけて、寂聴さん自身の不倫体験と、同時にあった三角関係を下敷きにこの作品が書かれたと聞き、わたしは一層この作品への興味を強くした。

 わたし自身、既婚の男性と恋愛関係にあった時期があり、また、時を同じくして年下の男性との関係を持ち、別の既婚男性からのアプローチを受けていた経験があるからだ。


女性が社会進出していない昭和30年代
手仕事に誇りを持ち、心情を反映させる知子の美しさ

 だらしなく放り出された足、陽が射す部屋でなまめかしく照る鎖骨、毅然とした背中から後頭部にかけて色っぽく曲線を描くうなじ。
30代半ばという自身の実年齢より10歳は年上で、複雑な関係にある知子を演じる難しさに「現場でももがいていました」と本作の完成披露にて語った満島ひかりさん。
彼女との仕事を熱望していた熊切監督は、「満島さんを凛と美しく撮りたかった」と言う。

熊切「知子の職業は染織家なんですが、原作では設定だけでその詳細にはあまり触れられていなくて、映画ではその辺をちゃんと見せないと、下手したらただのだらしない女の人と思われそうだなって。
自立して、ちゃんと自分の仕事を持っていて、そこにプライドがあって、という風に撮ろうと思っていました」


 鑑賞後に大きくわたしの心に残ったのは、知子が映画の最初から最後まで、きっちり仕事に従事している点だった。
知子の生業である型染めの作業をはじめ、手仕事の細かい動きが、彼女の爪先まで見えるほどにたんねんに捉えられ、ちりばめられていた。

熊切「調べてみると型染めは作業工程が単純におもしろく、同じ物作りをする人間として、その作業を見せることで言葉以上に心情が表せると思い、力を入れて撮っています。
満島さんの手が独特で、指が長くて節ばっていて、良い特徴のある手だったんです。あの手で知子の本心を表して欲しいと思い、本当はとても難しい作業なんですが、これはもう本人にやってもらわないと、と」


 撮影前にストイックに染色の技術を学んで、満島さんは撮影に臨んだそうだ。
たしかに作品では、黙々と作業にかかる動きも表情もなめらかで美しく、熊切監督の言うように、知子の自分の仕事への誇りに説得力を持たせていて、それが本作の強い希望としてわたしの目には映った。

他人の好意を利用しても自尊心は満たしきれない

夏の終り 熊切和嘉 宇治田隆史 瀬戸内寂聴 新潮文庫刊 満島ひかり 綾野剛 小林薫 クロックワークス
©2012年映画「夏の終り」製作委員会

 わたしの不倫関係、と書くとよけいな重みがのしかかってしまいそうなので言い訳させてもらうと、付き合いを続けるなかで相手が既婚者だと判明した、そんな恋愛関係だった。
その後、戸惑って距離を置いてみたり、身体の関係も持たなかった。
しかし、その相手が当時のわたしの仕事の道を導いてくれる立場にもあったので、完全に会わないという選択ができなかった。

 実際に寂聴さんが不倫関係にあったのは小田仁二郎という作家で、彼のもとで彼女は文学を学んだという。
小田をモデルとした慎吾(小林薫)と知子の関係と、わたし自身の経験がリンクして見えた。
もしかすると、仕事のつながりがなければわたしも知子も、この恋愛関係にこだわって熱を上げることはなかったかもしれない。

 先述の通り、不倫関係とは別にわたしは、年下の男性と恋愛関係を持ってみたり、そのほかにもまた別の既婚男性からアプローチを受けてデートをしたこともあった。
けれど、どれも虚しかった。

『夏の終り』でも、慎吾に隠れて、知子は年下の涼太(綾野剛)と関係していた。
慎吾のことを知っていた涼太は不安を募らせながらも知子に執着するが、自分を都合よくつなぎとめる彼女の身勝手さを「ふしだらで、淫らで、だらしがないよ」と言い放ち、ついには冷たく突き放してしまう。

 本命の男性との関係が不安定であることや、仕事に対して未熟で上手くいかないことの代わりに別の男性との関係で埋めようとしても、根本的な問題は解決しない。
本作での慎吾も、知子も、相手に優しいけれど自分の都合がいちばんで、相手と向き合わず、結局は現状のぬるい心地良さを維持しようとする。

 世間的に良しとされない関係にあるということ以上に、自分ときちんと向き合ってくれない彼との関係に疲れ、自信を失っていたわたしを支えたのは、仕事だった。
ある程度は他人からの承認が必要だけれど、自尊心は自分で築き上げる必要がある。
彼との仕事を踏み台にし、独り立ちして乗り越えたいという一心で励み、最終的に関係を清算することができた。


間違った恋をしたから
間違いと知って、納得できる

 ところで、熊切監督は、なぜこの作品を撮ろうと思ったのか? 知子のような奔放な女性についてどう思っているのか?素朴な疑問が湧いた。

熊切「知子は正直なだけにすごく不器用な生き方とも取れて、あまりそこに計算がないと言うか。こらえきれず告白もしてしまうし、慎吾と涼太どっちに対しても想いがあるからこそ、のたうち回って自分でどうして良いかわからなくなっていく、みたいな人だなと。

原作を読んでいたときも感じていたんですが、僕は器用に立ち回れない人が好きと言うか、そういう人を見守りたいというか、なんとかしてあげたいと思っちゃうんですよね。満島さんにもそういうところを感じます」

夏の終り 熊切和嘉 宇治田隆史 瀬戸内寂聴 新潮文庫刊 満島ひかり 綾野剛 小林薫 クロックワークス
2012年映画「夏の終り」製作委員会

 兵庫県の加古川と淡路島をロケ地に、昭和30年代の東京と横浜の風景を見事に作り上げた本作のロケーションは、知子、と慎吾、と涼太、それぞれの関係をやわらかく見守るような雰囲気で、人生のままならさや憤りに直面し心折れたりする人々を支えているように見えた。

 自分に正直であるがゆえにいやらしくもあり、なまめかしくもあり、疲れた表情も見せれば、とてもかわいい顔もする知子のまっすぐさを体現する満島さんが印象的である一方、要所要所に差しはさまれる、静かに変わる空の様子が美しく際立つ。
変わり続けるありのままの自然の懐の深さは、同時に、結局は自分で自分のことを引き受けるしかないという、突き放すような現実の残酷さにも思われた。

熊切「主人公に肩入れして撮ってるんですけど、微妙なところではわからない、自分の生活とは違うところもあったりします。でも映画なら、単純に喜怒哀楽だけじゃない、もっと神経を逆なでするくらいに、観る人の心を揺さぶられる気がしていて。静かだけど烈しく、観る人の心を揺さぶるような映画になれば、と。

ところで僕には姉が二人いるんですが、女性映画を撮る時には何故かいつも姉の顔がちらつきます。
どこか遠慮して生きているように見える姉に対して、「もっと好き勝手生きていいんじゃない?」と、そんな想いが重なります。

本当に想いがあるならば、突き進んで良いんじゃないか。その先に大変な目に会うかもしれないけれど、それをひっくるめて、そういう人生を僕は肯定したいんですよね。僕自身は、日常は極力おとなしく、エネルギーを使いたくないんですけど……」


 恋愛に限らずとも読者のみなさんのなかにも、相手や自分と正直に向き合えなかったり、素直になれず窮屈な思いを経験したひとも多いだろう。
1930年代に30代を過ごし、社会的にもきっと不自由しただろう知子に共感できる女性も多いと思う。

 倫理的には不倫関係は許されない、とされている。
だけど、他人から「やめておけ」と忠告されても、まちがいだとしても納得するまで自分で向き合わないと、やめられない。取り返しのつかない失敗を経験して、色んな傷を重ねたことで、わたしもようやっとつまらない恋愛関係に手を出さないようになってきた。
自分で納得して、自分の手で終わらせた関係からは得られるものがきっと、ある。

 映画の最後、嵐が過ぎた夏の終りに、知子の表情はとても清々しく見えた。


8月31日(土)より有楽町スバル座ほか全国ロードショー

監督:熊切和嘉
脚本:宇治田隆史
原作:「夏の終り」瀬戸内寂聴(新潮文庫刊)
キャスト:満島ひかり、綾野剛、小林薫
配給:クロックワークス
2012年 / 日本映画 / 114分
URL:映画『夏の終り』公式サイト


Text/鈴木みのり


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ライタープロフィール

鈴木みのり
某出版社の編集者にナンパされて、流れるままにはじめたライター2年目。

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