• love
  • 2014.05.31

学生時代の恋愛ヒエラルキーは15年は変わらない!?強者は30前半まで強者のまま/脚本家・狗飼恭子インタビュー『百瀬、こっちを向いて。』


 映画『百瀬、こっちを向いて。』をはじめ、数多くの作品を世に送り出した"恋愛を考えるプロ”脚本家の狗飼恭子さんにインタビューを伺いました。
映画『百瀬、こっちを向いて。』のレビューはこちら

「女として扱われることが嬉しい」女性の機微を

百瀬、こっちを向いて。狗飼恭子 映画脚本 小説家 スペシャルインタビュー


――原作と結末が異なるとのことですが、脚本執筆にあたり、特に気をつけた点はありますか?

狗飼恭子さん(以下、敬称略): 原作も監督も、主人公も男性の小説なので、私が脚本家として呼ばれた理由は、女性の気持ちを物語に盛り込むことなんだ、と思ったので。
原作には主人公ノボル君の気持ちが十分に描かれているので、百瀬や、神林先輩といった女性側の小さな感情の機微を作るように考えました。

――百瀬がたくさんの兄弟の長女というのは、納得感がありました。
兄弟をあえて登場させるというインスピレーションはどこから?

狗飼: 百瀬みたいに自己主張があり、好き嫌いが見えている子にとって、みんなが憧れているからという理由だけで宮崎先輩を好きになったんじゃないと思って。
じゃあなぜ、先輩を好きになったのかと考えていったときに、百瀬が普段もらっていないものをくれる人だからだ、と。
普段お家では、小さなお母さんとして子どもたちの面倒を見ている彼女を、先輩は小さな女の子として見ている…つまり女として扱ってもらえるってことに初めてを感じて、とても幸せだったんじゃないかなぁと思ったんです。

――登場人物の中で感情を入れて作り上げたキャラクターは?

狗飼: 宮崎先輩の恋人である、神林徹子を書くのはすごく楽しかったです。
『百瀬、こっちを向いて。』の肝は「高校生の恋愛物語だけじゃない」というところだと思うんです。物語の鍵になっている神林徹子が魅力的になるように心がけました。
百瀬や宮崎先輩の気持ちに気付いているか、いないのかのという微妙なラインを保たせて書いたんです。 徹子さんの話だけを拾うとミステリーみたいになってしまいますね(笑)。

――男性のキャラクターで特に力が入った登場人物は誰ですか?

狗飼: わりと原作のままですが、田辺くんというノボルくんのお友達ですね。彼も書くのがすごく楽しかったです。
物語をロールプレイングゲームのように例えるシーンが作中でもあるんですが、田辺くんは私の中でドラクエの「ホイミ」という回復魔法をかけてくれる人なんです。例えば、ノボルがお腹が痛い時は心配してくれるし、お金を忘れたら貸してくれるし、弱っていたらドーナツをくれるというように。
ノボルがレベルをあげた時や、死にかけた時に、ちゃんと回復させてくれる友達という風に考えて作りました。

――女性の場合、彼氏がいる・いない、既婚・未婚で付き合い方が変わり、田辺とノボルのような友人関係を維持することが難しくなってしまうこともあると思うんです。
女同士でも田辺くんみたいな存在でいるためには、どのように接していくことが大切ですか?

狗飼: 田辺くんのすごいところは、ノボルに質問をしないところなんです。ノボルが言ったことにだけに答えている。
「彼女と付き合うことになった」と言われたら、「えっなんで!どうして?」って聞きたくなっちゃうと思うんですけど、「そうなんだ」としか言わないんです。
質問をせずに、相手の話したいことだけを聞いて、何を欲しているのかを見ているんですよね。そういう人間になれたら、友達とも仲良くいけるんじゃないかなと思います。

――いい子なんだなと、改めて思いました。

狗飼: 田辺くんには幸せになってほしいですね(笑)。

恋愛強者はいつまでも強者

百瀬、こっちを向いて。狗飼恭子 映画脚本 小説家 スペシャルインタビュー


――百瀬自身の15年後はどうなっていると思いますか?

狗飼: 脚本にも書いたのですが、百瀬の15年後は髪が長いと思います。それはまだ恋を引きずっているから。
このお話の原作をすごいな、と思ったのは、恋愛強者はいつまでも強者なところなんですよ。
恋愛目線で見ると、高校生時代の恋愛のヒエラルキーというのは、30代前半くらいまでずっと変わらないものなんだなっていうことが描かれている気がするんです。
なので、この映画のラストの時点では、恋愛弱者だったキャラクターはまだ恋愛弱者のまま。映画が終わって、その先のストーリーでやっと恋愛弱者から抜け出せるんじゃないかな、と思っているんです。

――今も高校時代の恋愛観を引きずっている気がしてきました。

狗飼: 30歳前半くらいまでは、高校時代にモテた人がモテるんだなって思うんです(笑)。
ただ30代後半になってくると、高校時代にモテてきた人の「モテ貯金」が底をつくのが見えてくるんですよ。それまでに結婚をしたり、子供ができたり、幸せな家庭を育んでいる人はいいんですけど、「まだまだいける」と思っていると、30代前半、30代半ばと年齢があがるにつれて、高校時代にモテていた人ほどモテなくなります。
逆にモテなかった人がモテるようになるので、みんな頑張って!(笑)。頑張ればいつか時がくるから。

――百瀬は家族に愛情をたくさん注げて、家庭的で、とてもいい子だと思うんです。
友人でもいい子で面倒見のいい子ほど、二番目扱いされてしまうような気がするのですが、それは何故だと思いますか?

狗飼: 私が思うに、二番目になってしまう女性は、本命にされる女性たちよりも愛情深い気がするんです。人をいっぱい愛したい人なんですよ。
普通の恋愛って、恋愛に使うエネルギーが100以内で収まるんですけど、他に相手がいる人だったり、叶わない恋愛をしている時って100じゃ恋愛力は足りなくて、どんどん自分から愛情を出していかないといけないじゃないですか。
叶わない恋だからこそ、愛をたくさん与えることができるんです。

でも普通の恋愛において200の愛を与えてしまうと、相手の男の人が重いと感じるか、ダメになるかどっちかなんですね。他に相手がいるということは自分が投げた愛を全部は受け止めてなくて、スルーしているわけなので、彼自身は潰れないですよね。

二番目になってしまう女性は、愛が大きい人なので、それはすごく素敵なことだと思うんです。
ただ、それが嫌なんだったら、恋愛以外に夢中になれる何かをどうにかして見つけて、恋愛には100の愛情以内に収めるようにテクニックを覚えるしかないのかなと思います。

――愛情が大きいというのは、育ってきた環境に影響されやすいのでしょうか?

狗飼: 単純に体力があるとか、ご飯をたくさん食べるように、資質の問題のような気がします。
でも、中には後天的な人もいるとは思います。例えば、幼稚園のときに自分の大好きな女友達が他の子としゃべっているのが許せなかったとか、大好きなお人形を他の人に触られたくなかったとか、そういう子たちが愛情過多になりがちな人かも。
だから、もしも愛が大きすぎて困ってしまう人は、皆を平等に愛さなくてはならない学校の先生とかになるといいと思います。
実際、百瀬役の早見あかりちゃんも、「子どもが大好きで保育士になりたかった」と言っていたので、百瀬に通じる愛情の深さを元から持っていたんだろうなって思いました。

――二番目になっている友人がいたら、なんて声をかけるのがベストなんでしょうか?

狗飼: 「そんな人止めなよ」、「あなたを幸せにできないよ」って言っても全く届かないですね。彼女たちは愛情が深くて、困難があるほど私が彼を愛してあげなきゃって思ってしまうので、「二番目でもいい」という人が多いと思うんです。
だから、「あんまり我慢しなくていいよ、自分の欲しいものを欲しいって言ってもいいんだよ」って言ってあげたいですね。

百瀬も恋敵である神林さんに好かれる必要は全然ないのに、大好きな宮崎先輩を困らせないために笑顔で接して、強い子だなと思うと同時に、可哀想だなと思いますね。

「浮気しないで」とビシッとしめる

百瀬、こっちを向いて。狗飼恭子 映画脚本 小説家 スペシャルインタビュー


――パンフレットのインタビューで、「恋人がいる人と付き合うことが汚く見えないといいな」と書かれていましたが、脚本ではどのように気を付けられたのでしょうか。

狗飼: 百瀬は決して誰かの不幸を願ったり、傷つけたりはしていないんです。
作中のセリフでも出てきますが、「いつか先輩と神林さんが別れて、先輩が一人になって自分のところに来るかもしれない」という、ものすごく小さな可能性のためだけに先輩や神林さんの前でニコニコ笑っているんですね。 それってすごく精神力のいることで、それができる子っていうのは、同性でも応援したくなるんじゃないかなと思いました。
なので、汚く見えないっていうのは、すごく大切なポイントでした。
百瀬は「いい人が嫌い」って言うけど、実は彼女自身がいい人なんだっていうところがちょっとずつ見えたらいいなと思って作っていきました。

――構図的には、百瀬か神林さんのどっちかに肩入れしちゃうと思うんですけど、なぜか両方嫌いになれないっていう魅力的な映画でした。
狗飼さんは男性の浮気には気づく方ですか?

狗飼: どうだろうな。気づかない方だと思います(笑)。

――もしも相手の浮気がわかった場合、どういう行動に出ますか?

狗飼: 彼のことを好きで、浮気に気づいたからって別れられるような精神状態でない、自分のもとに戻ってきてほしいという前提でいうと。
神林さんのように何も言わずに待っていると思います。気づいているのかな?と思わせるような行動や言動をしたり、ちょこちょこフックはかけると思います。

変な言い方かもしれないですけど、男の人になめられてしまったら浮気されると思うんです。
なので、「浮気してもいいのよ、別に」ってへらへら笑うんじゃなくて、「浮気しないでね」ってピシって決めて言うくらいの強さや大人っぽさがある程度は必要な気がします。

――「気づいているのかな」と思わせことを散りばめるんですね(笑)。

狗飼: そうそう。「今日機嫌いいね」って言ってみたりとか(笑)。

――(笑)。もしものときは使ってみます。

恋愛を考えるプロ


――狗飼さんの描かれる作品はとてもリアルで納得感があるのですが、その鋭い目線はどのように育んできたのですか?

狗飼: 単純に恋愛話が大好きで。自分が恋愛をするのも好きですし、中学、高校くらいから人の恋愛話を聞くのが大好きだったんです。なので、延々人の話を聞いて育っていたんです。 小説も映画も恋愛モノは片っ端から読んだり見たりしています。

――ずっと恋愛の作品をつくりつづけるポリシーがあれば教えていただきたいです。

狗飼: ただ単純に恋愛と恋愛にまつわる事柄がすごく好きなんですね。例えば、研究が好きな人は研究者になるし、子どもが好きな人は保育士さんになったりするし、色んな職業を選んでいる上で、私は恋愛が好きなので恋愛に関わる仕事をしているんだと思います。

――恋愛のどんなところが好きですか?ドロドロとした怖い部分もあるかと思うんですが。

狗飼: そうですね。でも、恋愛以上に人間の感情が上下することってそんなにないと思うんです。
もちろん人が死ぬとか、家族の問題とかはあると思うんですけど。恋愛はそういった世界規模の出来事に対して、とても小さな輪の中で人間の感情が動くんですね。
その小さな輪の中を見たいというか、解明したいなって思うんです。

――恋愛のプロにお話しが聞けて感動しました。

狗飼: 恋愛について考えるプロ、ですかね。

プロフィール
狗飼恭子


1974年埼玉県生まれ。高校在学中より雑誌などに作品を発表し、18歳の時に『オレンジに歯がしみたから』(角川文庫/2013年 ノンカフェブックスより復刊)にて作家デビュー。
主な小説作品に『冷蔵庫を壊す』『薔薇の花の下』『温室最愛』、エッセイ『幸福病』『ロビンソン病』(以上すべて幻冬舎文庫)などがある。
『ストロベリーショートケイクス』『スイートリトルライズ』などの映画脚本も手がけ、原作・脚本を務めた『遠くでずっとそばにいる』(長澤雅彦監督・幻冬舎文庫刊)などがある。


監督:耶雲哉治
キャスト:早見あかり、竹内太郎、石橋杏奈、工藤阿須加、ひろみ、向井理
配給:スールキートス
2014年/日本映画/109分
URL:映画『百瀬、こっちを向いて。』公式サイト

Text/AM編集部


AMをiPhoneアプリで読みませんか?

お気に入りのライターや連載を登録すると、プッシュ通知でお知らせすることや、お気に入り記事を保存できるので、AM読者は必携です!
ダウンロードはこちらから。


Twitter、FacebookでAMのこぼれ話をチェック!

関連キーワード

今月の特集

AMのこぼれ話

アンケート

読者アンケート

AMではより楽しく役に立つサイトを目指すため、読者アンケートを実施しております。 本アンケートにご協力お願いします。

アンケートはこちら