読み切り小説「婿を買いに」

☆婿を買いに(前編)☆

 婿を買いに行く前の日、私は美容院に行った。
 
 いつも担当してもらうミナさんが休みだったので、本当なら別の日にしたかったのだけれどしかたない。顔見知りではあるけれど切ってもらうのは初めての若い女の子に、頭を委ねる。

 「バリですか!? うわぁ、うらやましいなぁ~」

 世間話のついでに明日から旅行に行くと話すと彼女は素直に感嘆の声をあげた。私に対して緊張しているそぶりはない。私のほうはさっきから彼女の手さばきが不安でならないのに。

 「あっちでは、観光ですか? あ、あれ? お仕事ですっけ? たしか山本さん、そういうお仕事を・・・」

 ここにはもう10年以上通っているので(ミナさんと気が合うのだ)、私が輸入雑貨を扱う会社を経営していることは知られている。

 「そうね。仕事でもないし観光でもないかな。強いて言えば、買い物?」

 「うわ~~。いいな~。私も、ぱーっと海外で買い物したいですよ。あったかそうだし、物価も安そうだし。いま円ってあれ? 強いんでしたっけ、弱いんでしたっけ? いいなぁ」

 彼女の手さばきが口の動きに応じて安定してきたので、一息ついて雑誌をめくった。ちらっと鏡の中の一生懸命な横顔を盗み見る。あごのラインがすっとシャープだ。まだ20代前半だろうか。

 私も彼女ぐらいの年の時には、海外で買い物をするのは大変な楽しみだった。休みのたびに海外旅行を組んだものだし、その趣味が高じて28歳のときに独立・起業したようなものだ。あのころは、なんでも欲しかったし、安く買えることはそれだけで快感だった。

 ところが40歳を少し超えたいま、私が欲しいものはそれほど多くない。私がバリまで何を買いに行くのかこの子が知ったら、長いまつげをしばたたかせてびっくりするだろう・・・

ーー

この続きは

●オフィシャルメールマガジン
https://www.mag2.com/m/0001609851.html

でのみ、お読みいただけます!

【五百田達成 オフィシャルメールマガジン Vol.22】
11月25日発行

☆なるほど!人づきあい心理学 宴会にも企画書を!
☆コミュニケーションの現場ニュース 「どうでもいい話」を乗り切る方法
☆男と女の地平線 男と女が近づくほど、恋は難しくなる
☆特別企画=読み切り小説 「婿を買いに」

https://www.mag2.com/m/0001609851.html

$五百田達成 オフィシャルブログ

☆首都圏以外の方には、チャット(スカイプ)相談も!!☆

結婚できないのはママのせい? -娘と母の幸福論/阪急コミュニケーションズ

¥1,470
Amazon.co.jp